お互いを想い過ぎてすれ違う事もあるよね(4)
「リボンですか?」
ジャックがベリス王子に尋ねているね。
「ちょうど皆さんに試してもらおうと持ってきていたのですよ。紙の代わりに使えませんか?」
「うわあぁ! ツルツルで高そうだなぁ」
ベリス王子が始める商売のリボンだからね。
質の良さにジャックが驚くのも無理はないよ。
「じゃあさ、このリボンを花の形にしたらどうかな?」
わたしもお手伝いさせてもらおうかな。
「リボンを花の形に?」
ベリス王子が商売の気配を感じたみたいだね。
「永遠に枯れない花なんて素敵だよね。自分の気持ちも永遠に続くみたいでさ」
「……! それは……プロポーズに使えそうですね」
「え?」
ベリス王子の瞳がキラキラ輝き始めたね。
プロポーズに使う花ならかなり高額にしても売れそうだからね。
「では、先生が来る前に早速作りましょう」
ベリス王子は新たな商売を思いついたからご機嫌だよ。
本当に父親にそっくりだね。
「うーん? 難しいな……」
グリフォン王は普段は猫みたいなかわいいあんよだから難しそうだよ。
「上手に作れなくても大丈夫じゃないかな? 大切なのは気持ちだよ?」
「……はい。うーん……母上の好きな白色で作りたいけど……細かいところが……」
「ふふ。白いバラみたいに見えるね。そういえばグリ……あぁ……いや、王子の国は白いバラでいっぱいだったよね」
危ない危ない。
グリフォン王国って言いそうになっちゃったよ。
「はい。母上はあのバラを見ては微笑んでいて。だから、どうしても白いバラを作りたくて」
「……知ってる? 白いバラの花言葉ってね……一輪の白いバラは『一目惚れ』。九十九本の白いバラは『永遠の愛』なんだって」
「花言葉……? わたしが母上に一目惚れなんて変ですよね。永遠の愛も変かな……うーん……」
「ふふ。心から尊敬しているっていう意味もあるみたいだよ? 一つの花にいくつも意味があるの」
「一つの花にいくつも意味がある? 皆それぞれ『いい王』が違うように? 強かったり優しかったり……強いだけではダメなのか? 母上はそれを分からせる為にアカデミーに来させたのか……? でも母上はいつも強くなれって……」
「口で言うより自分の目で見た方がいいと思ったんじゃないかな? それに『強い』って力だけに使う言葉じゃないよね。心にも使うんじゃないかな?」
「心の強さ……? ……心から尊敬……わたしは母上を心から尊敬しています……よし……頑張って作って母上に喜んで……でも……『こんな物』って言われたら……『そんな暇があるなら勉強をしろ』って言われたら……」
「王子はお母さんが……一生懸命作った物をそんな風に言うと思うの?」
「……え?」
「絶対に喜んでくれるよ」
「絶対に?」
「うん。あとは肩たたき券だね!」
「肩たたたた?」
「ふふ。母の日と父の日といえば肩たたき券でしょ! あ、母の日じゃないけどね」
グリフォン王子の人化していない肉球のあんよでモミモミしたら……
ぐふふ。
堪らないね。
「母の日……? それは何ですか?」
「ん? いつもありがとうって感謝する日だよ?」
群馬ではお父さんもお母さんもいなかったから寂しい日だったけどね。
「……何をする日なのですか?」
「うーん……お花とか……お菓子とか……肩たたき券とかを贈るのかな? あとは普段恥ずかしくて言えない感謝の気持ちを伝えるの」
「なるほど……」
「今日は母の日じゃないけど……その前に、この世界に母の日は無いかもしれないけど……感謝の気持ちを伝えるって素敵な事だよ」
「感謝の気持ち……はい。頑張って花を作ります……母上に……喜んでもらえるように」
「うん!」
……ベリス王子に母の日と父の日の話を訊かれるかと思ったけど。
儲かりそうなイベントなのにどうしたのかな?
「……では、そろそろ先生が来る頃なのでこの話はこの辺りで……」
……?
ベリス王子はどうかしたのかな?
いつもの作り笑顔に少しだけ元気がないね。




