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ベリス族長の息子と人間の少女の物語(14)

今回は遥か昔のベリス族長の息子が主役です。

 家に帰ると早速父上から種族王の元に行くように言われた。

 リリーの事を忘れるのにちょうどいいか。

 

 それから、丸二日種族王の趣味の悪い黄金の家具作りを手伝わされた。


 フラフラになりながらジャバウォックに乗ると父上の待つ家に向かうように伝えた。

 眠い……

 眠過ぎる……

 ウトウトしているとジャバウォックが空を飛び始める。



 ん?

 着いたのか?

 地面の匂い……

 ……?

 ……リリーの匂い!?


「ジャバウォック!?」


 ここは……

 リリーの家がある集落だ。


「グルル」


「グルルって……お前……どうして……オレは家に帰らないと」


「グルル」


「……え?」


 リリーの匂いが近づいてくる?


「お兄ちゃん……」


「……! リリー……」


「犬……お兄ちゃんを連れてきてくれたんだね」


「グルル」


「……リリー? あの……これは……えっと……」


「ずっと待ってた。ずっと……ずっと……たった三日だけどすごくすごく長かったよ」


「リリー……ごめん。忙しくて……」


「犬から教えてもらったよ? 仕事をしていたんだよね」


 ジャバウォックから?

 いつの間に、ここに来ていたんだ?

 オレが種族王の家具を作っていた間、ここに来ておもしろおかしく遊んでいたのか?

 オレは我慢していたのに。

 オレだってリリーに会いたかったのに。

 リリーは、たぶん人間……だし。

 オレは魔族だから……

 それに魔素で苦しめたし。

 だから会わないようにって我慢していたのに……


「リリー……あの……」


「わたし……お兄ちゃんが魔族だって知ってたよ?」


「ええ!? 嘘! いつから?」


「初めから……だって勇者様の事も聖女様の事も知らないんだもん。人なら皆知っているんだよ?」


「初めからって……どうして……怖がらなかったの?」


「だって……人の山賊よりもずっとずっと優しい瞳をしていたから。それに……魔族は優しいんだよ? 花冠を上手に作れるんだって。お兄ちゃん……わたし……本当は……怖くて逃げたの」


 ……?

 花冠……?

 逃げた?


「……えっと?」


「父さんと兄さんが戦で死んだかもしれなくて……今にも死にそうなおばあちゃんを一人で……看取るのが怖くて。どうしたらいいか分からなくて……薬を買いに行くって理由をつけて逃げたの」


「リリー……」


「でも……やっぱり薬は無くて、そこに戦から帰ってきていた人達がいて……父さん達はもう死んだんだって思って……でも、生きているって思いたくて……家に帰る道で死んじゃいたいって……そうしたら……お兄ちゃんと犬が見えて……」


「……リリー」


 そういえば……

 あんなに暗かったのにリリーはどうしてオレとジャバウォックが見えたんだ?

 しかも、明らかに魔族のジャバウォックを見ても怖がらずに話しかけてきたし。


「わたし……夜目が利くの」


 ……やっぱり。

 リリーは普通の人間じゃないんだ。


「リリー……オレは……楽しかったよ」


「……わたしも……楽しかった」


「もう……会いには来ない」


「お兄ちゃん……」


「オレは魔族だから」


 これでいいんだ。

 リリーは自分自身を普通の人間だと思っているし……

 自分が魔族に近いなんて知ったら傷つくはずだ。

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