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ベリス族長の息子と人間の少女の物語(13)

今回は遥か昔のベリス族長の息子が主役です。

 山賊の……クズどもめ。

 そうか。

 山賊達は一ヶ所にいるのか……


「リリーは……助かるんだよね?」


「ああ。オレ達はなぜか魔素に強いんだ。だからすぐに元気になるさ」


 魔素に強い?

 人間なのに?

 ……今はその話じゃないか。


「……リリーに伝えてくれるかな?」


「……? もうじき目を覚ますはずだ。話していけばいい」


「いや、もう行かないと……」


「……そうか。リリーが残念がるだろうな。でもあと、三日はここにいるからいつでも会いに来てくれ」


 いつでも会いに……

 あと三日……リリーがここで穏やかに暮らせるようにオレができる事。

 それは一つだ。


 オレは隠れていたジャバウォックに乗ると山賊達がいると思われる森に向かった。


 確かに人間の匂いと気配と……血の匂いがする。

 ……? 

 悲鳴も聞こえる?

 森の中で何が起きているんだ?


 森に入るとジャバウォックが地面に爪で文字を書き始める。


『待て』……?


 何を?


「ジャバウォック? 何を待つんだ?」


『見ろ』……?


 何を?

 ……?

 近くで悲鳴が聞こえるけど……


 ……なんだ?

 人間が人間を素手で殺している?

 あの人間……

 青い瞳……

 少しだけする人間じゃない匂い……

 まさか……

 リリーの父親?

 なんでこんな所でこんな事を……


 ……全員殺したのか?

 静かになったな……


 息を切らして立ち尽くすリリーの父親らしい男は泣いていた。

 血で赤黒く汚れた頬に涙の跡がついている。

 声を殺して泣いている姿は……

 

 人間じゃない。

 

 あれは魔族?

 いや、でも……

 魔族じゃない匂いのような?


 男が川に入り血を洗い流し森から出るとオレは山賊達の死体を見て回った。

 

 すごい……

 素手で身体を貫いている……

 

 リリーの家族が持つ力は一体何の力なんだ?


 家の中に入り、汚くギシギシ鳴る床を歩き奥に行くと……


 あぁ……

 拐われた人間達か……

 数が少ないな。

 他はどこかに売られたのか……


 皆死んでいる。

 苦しくないように……痛くないようにやったのか……

 リリーの父親が……罪の無い、拐われた人間を殺したのか?


 ……乱暴されて妊娠している人間もいるようだな。

 一思いに……楽にしてやったのか……

 今助けたとしても……

 この人間達は一生苦しむ事になる。

 これは優しさ?

 それとも……

 

 ……オレには考えても分からないな。

 オレは魔族だから。

 結局、人間は魔族の食糧なんだから。


 リリー……

 君は一体何者なんだ?

 

 魔素に強くて、父親は人間とは思えない強さ……?

 遥か昔に魔族と暮らしていた先祖?

 でも、リリー達からするのは魔族じゃない匂い……


 はぁ……

 考えても分からないな。


 家から出るとジャバウォックが近づいてくる。

 頭が混乱して何も考えられない……


「帰ろう。オレの家に……もう……リリーはいないのか」


「グルル」


「ん? ジャバウォック? なんだ?」


 爪で地面に文字を書いているな。


『オレがいる』……?


「ジャバウォック……オレは……一人じゃないんだな」


 こうして、オレはジャバウォックと二人で家に帰った。

 リリーのいない家はいつもより広くて静かで……

 でも、部屋のドアが開いて笑顔のリリーが出て来そうに思えた。


 ……はあ。

 父上のいる家に帰ろう。

 急に父上に会いたくなってきた。

 しばらくは秘密基地のここには来ないでおこう。

 リリーとの思い出が辛過ぎるから……


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