ベリス族長の息子と人間の少女の物語(5)
今回は遥か昔のベリス族長の息子が主役です。
あ、まずい……
空が明るくなってきた……
帽子を被っているから魔族だとばれないとは思うけど……
「オレ……行かないと……あの……また会いに来るから……」
「……うん。あ……名前……教えて?」
「え?」
魔族は同族以外に名を教えたらダメなんだ……
「あ……迷惑だった?」
「え? あ……いや。違うんだ。オレ……名前が……」
「名前が……?」
「あ、分かった。ジャックなんでしょ?」
「え? ジャック?」
「勇者様の名前と同じだから恥ずかしいんだね」
「え? 勇者?」
「あれ? 違うの? ずっと昔に魔王を倒した勇者様の名前だよ。確か、最初の勇者様はロスタム様……? だったかな?」
「ロスタムと……ジャック?」
「うん。ロスタム様より後の勇者様は皆ジャック様なんだって」
「……ふぅん。先祖代々名を受け継いだのかな?」
「……違うみたいだよ? 勇者様は貴族だったり平民だったりするから」
「へぇ……不思議だね」
「そうだね……(やっぱり……)」
ん?
やっぱり?
「えっと……オレの事は……『お兄ちゃん』って呼んで欲しいな」
お兄ちゃんなら名じゃないから大丈夫だろう。
「お兄ちゃん……? ……うん。お兄ちゃん……」
「……やっぱり……町まで……一緒に行く?」
このまま一人にしたくないよ。
山賊とか悪い兵士が来るかもしれないし。
「……大丈夫。……お兄ちゃん?」
「うん?」
「ありがとう。一人だったらおばあちゃんを埋葬できなかったよ」
「……うん」
「わたしはリリー」
「え? リリー? あ、名かな?」
「うん。男はジャック。女はリリーとかマリーとかが多いの」
「そうなんだね」
「遥か昔の聖女様の名前らしいんだ」
「聖女……」
「わたしみたいなのが聖女様と同じ名前なんて恥ずかしいんだけどね……」
「そんな事ないよ! 君は……リリーは素敵だよ」
「え?」
「家族思いで優しくて……さっきも、お腹を空かせたジャバ……あ!」
しまった!
ジャバウォックをすっかり忘れていた!
「オレ……行くよ! また……絶対来るから! あ、でも町に行きたくなったら早めに行くんだよ? オレを待たなくていいから! 絶対捜しに行くから!」
「……絶対捜しに来る?」
「オレ……目もいいけど鼻も利くんだ」
「……そう。……うん。分かった」
「リリー。君は一人じゃないよ? もし……家族が戦から帰らなくても……オレはリリーの知り合いだから!」
「知り合い……人はね……こういう時は『友達』って言うんだよ?」
「……え?」
『人』は……?
もしかしてオレが魔族だってばれた?
「あぁ……お兄ちゃんは……田舎から来たみたいだから……」
なんだ。
ばれたかと思ったよ。
そうだよ。
魔族だってばれたらこんな風には話してくれないよ。
怖がって逃げるはず……
……?
あれ?
明るくなったから……
リリーの腕にヤケドの痕が見える。
「あ……見られちゃったね。赤ちゃんの時に悪い山賊が襲ってきたの。その時、この辺りは焼かれて。赤ちゃんだったわたしを助ける為に母さんが……」
「亡くなったの?」
「……うん」
なんて酷い事を……
 




