ハデスから語られた過去(10)
今回は『じいじ』だった頃のハデスが主役です。
「共に戦うと……?」
か弱そうなパートナーだが、瞳からは心の強さを感じる。
「はい。この世の中で一番恐ろしいものはなんだと思いますか?」
「……なんだろうな?」
「子を愛する母親を怒らせる事です」
「……そうか」
先程よりもさらに殺気立っているな。
だが冷静さも失っていない。
……誰よりも魔王にふさわしいのではないか?
「ふふふ。魔王……今まで魔族を虐げ苦しめてきた事を後悔させてあげるわ」
「パートナーは……魔王になってみるつもりはないか?」
「え? わたくしが……ですか? ふふふ。遠慮します。わたくしはグリフォン王と息子をしっかりと『お世話』しないといけませんから。ねえ? グリフォン王?」
「……! は……はい!」
上下関係がしっかりとできているようだな。
グリフォン王は普段はこんな感じなのか……
小さく震えてまるで子猫のようだ。
「では、行ってきますね?」
「ああ……待ってくれ。わたしも行こう。困難を共に乗り越えるのがパートナーだからな」
グリフォン王も共に来るのか?
さすがは互いを思い合うパートナーだな。
「ふふ。では、魔王城の外でお待ちください」
「だが……心配なのだ。近くにいたいのだ」
「わたくしは戦のたびに同じ気持ちになっていたのですよ?」
「……それは……そうだが……」
「今回はわたくしを信じて待っていてください」
「……何かあれば大声で叫ぶのだぞ? すぐに駆けつけるからな」
「はい。今から……」
「今から?」
「魔王を……あの生意気な……鼻垂れ小僧を成敗できると思うと……顔がにやけてきました」
「……え?」
「うふふ。じわじわとなぶり✕✕にしてあげるわ。今までの恨みを全て晴らさせてもらうわよ? ふふふ。無様に泣き叫ぶといいわ?」
「……あ、控え目に……国の外では控え目に……」
「あら、うふふ。わたくしはいつでも控え目よ?」
……この会話。
グリフォン王はかなり苦労しているようだな。
パートナーは溢れ出る殺意が止まらないし……
やはり、この者ほど魔王にふさわしい者はいないのではないか?
こうしてご機嫌なパートナーと二人で魔王城に着いたが……
「忘れるな。一つは毒の瓶でもう一つは解毒剤だ」
「はい。わたくしは常に冷静です。……ヴォジャノーイ王……?」
「……なんだ?」
「わたくしは……」
「……?」
「ありがとうございます。魔王を倒す機会を与えていただけて……本当に嬉しいのです」
「パートナー……」
「我がグリフォン族もかなりの数が魔王に命を奪われました。ですが、魔王の強さの前ではひれ伏す事しかできなくて……だから、亡くなった同族の恨みも晴らせるこの機会を必ずやものにしてみせます」
「そうか。だが……子を……母の無い子にしてはいけない。無理だけはダメだ。分かるな?」
「はい。もちろんです。さあ、魔王城に入りましょう。水の中を進む魔力……楽しかったですよ」
「そうか。浮遊島への帰り道も海の中を進むか?」
「いえ。帰りはグリフォン王が魔王城の外で待っていますから」
「……そうか。……感じたか?」
「……はい。ベリス王とイフリート王が傘下の種族を連れてこちらに向かっていますね」




