ハデスから語られた過去(9)
今回は『じいじ』だった頃のハデスが主役です。
「死ぬつもりなのか?」
グリフォン王のパートナーは命がけで大切な者達を守ろうとしているのだな。
「……相手は魔王です。近寄れるかも分かりません。ですが、わたくしには翼があります。魔王の姿が見える距離にさえ入る事ができれば……」
「それは違うな」
「え?」
「誰かが犠牲にならなければ助けられないような世界なら、お前が今命を落としても意味が無いのだ」
「……意味が……無い?」
「すぐにまた同じ事が起こるだろう。そして、また新たな一人の犠牲者を出す。そしてまた……と続くのだ」
「そんな……」
「残された子はどうなる? 親のいない子にするのか? 子が生きてさえいてくれればいいと? その子の気持ちはどうでもいいのか?」
「それは……」
「わたしは完璧主義者でな。一人も死なせはしない。分かるか? 死ぬ覚悟でいる者を魔王の元へは行かせない」
「ですが……それでは……」
「わたしが魔王を殺す」
「え? ヴォジャノーイ王が……ですか?」
「正直、魔王よりわたしの方が強い。だが……甥の為に静観していたのだ」
「甥……確か、妹君の忘れ形見の……」
「甥はわたしの全てだった。だから巻き込みたくはなかった。綺麗な物だけを見て汚く醜い物には触れさせたくなかった。だが……魔王はいずれ甥を拐うかもしれない」
「それは……そうかもしれませんが……」
「これで終わりにしよう」
「お一人で乗り込むおつもりですか?」
「ああ。そうだ」
「そんな! わたしも行きます! 伯父上!」
あぁ……
お前は……
そんな震える身体で……
優しいお前には無理だ。
かわいい甥のお前には綺麗な物だけを見ていて欲しいのだ。
これから魔王城で行われる事を見せたくはない……
「お前はヴォジャノーイ王国に帰り、待っていろ」
「ですが……伯父上を一人で行かせるわけには……」
「……わたしは魔王より強い。何度も言っているだろう」
「ですが……」
「ヴォジャノーイ王……わたくしにやらせてください」
パートナーが真っ直ぐな瞳でわたしを見つめている?
「……何をだ?」
「誰か一人が犠牲になる方法はよくありません」
「……?」
「わたくしを捕らえたと言い共に魔王城に行ってください。そして、わたくしが魔王を仕留め損ねたら、その時はヴォジャノーイ王が魔王を……」
「その必要は無い。わたしが一人で……」
「ヴォジャノーイ王……わたくしの息子には父親がいます。ですが……ヴォジャノーイ王の甥にはヴォジャノーイ王しかいないのです」
「……わたしは死にはしない」
「ですが……待つ方は……辛いのですよ」
「待つ方……?」
「戦は、戦地に赴く方も待つ方も共に辛いのです」
「……それは……そうだが……」
「ヴォジャノーイ王……守るべき家族がいる者同士、共に助け合いませんか? 我らは同志です。共通の敵のいる、そして何よりも家族を大切に想う『同志』です。支え合えば必ず良い方向へ進むでしょう。わたくしは女だからといって、ただ助けを待つだけの存在にはなりたくないのです」
 




