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ハデスから語られた過去(6)

今回は『じいじ』だった頃のハデスが主役です。

 そして、その時はすぐにやってきた。


「ヴォジャノーイ王……毒は作ったけど……毒の免疫をつけるには時間が足りないだろうから解毒剤を作ったよ」


 死の島にいるオーク族長が小瓶を渡しながら話しかけてくる。


「そうか」


「昨日イフリート王とベリス王のパートナーが連れ去られたんだよね」


「今日辺り……グリフォン王のパートナーが狙われるだろう」


「まさか、種族王が魔王に逆らってパートナーを渡さないって言うなんて思わなかったよ。かなり怪我をしたみたいだね。言われた通り薬を作ったよ。イフリート族とベリス族に渡してきて。すごく良く効くから。傷跡すら残らないよ」


「すごいな。傷跡すら残らない? ……魔王も焦っていたようだな。もう、魔王も終わりだろう。だが、魔族が全員でかかっても魔王には勝てないだろう」


「魔王はどうしてあんなに強いのかな?」


「それは……」


 死んだドラゴンの肉を食べたからだとは言えないな。

 そんな事を言えば『魔族は強くなる為に人間ではなく魔族を食べるべき』と誤解を与えてしまう。

 あれは、千年ほど前だったか……?

 ドラゴンの肉を食べる魔族の姿を天界から追放されていた天族が見て……

 面白がって力を与えたのが始まりだった。

 あの天族が魔族に力を与えたせいで、その魔族は恐ろしい化け物になってしまった。

 そしてその者が魔王になり……

 この世界は魔王が魔族を抑圧する世界になってしまったのだ。

 天族は本当にどうしようもない生き物だ。

 だが、天族の話はできないからな。

 わたしが天族だった事も秘密にしなければ……

 甥を巻き込んでしまう事だけは避けなければならない。

 魔族は天族を嫌っているからな。

 わたしは魔族から迫害されてもなんともないが、甥は心も身体も魔族だ。

 わたしのせいで苦しませるわけにはいかない。


「とにかく……イフリート族とベリス族に薬を渡したら、グリフォン王国に行ってくる」


「でも、グリフォン王国は浮遊島だよ? どうやって行くの?」


「海水で階段を作れば簡単に行ける。オーク族長は魔王が変われば国に帰れるだろうが……」


 人間を食べない種族は魔王が変わっても国には帰れないだろうな。


「……我々はこのままこの死の島に残ります。魔王が変わっても人間を食べない我らは迫害されるでしょうから……種族名さえ名乗る事を禁じられている我らは隠れて暮らした方が幸せなのです」


「そうか……これからも毎日食べ物を持ってこよう。安心しろ。誰からも迫害されず安心して穏やかに暮らせるように協力するからな」


「ヴォジャノーイ王……我らは……ヴォジャノーイ王に……魔王になって……」


「それはあり得ない。わたしは……魔王になってはいけないのだ」


 わたし自身が一番よく分かっている。

 わたしが魔王になれば……

 この世界は穏やかになるだろう。

 かつての冥界がそうなったように。

 だが、それではダメなのだ。

 

 まだ期待しているのか?

 いつか、姉弟の誰かがわたしを天界に戻してくれると……

 ペルセポネがわたしを迎えに来てくれると……

 誰も迎えになど来ないのに。

 わたしは愚かだ……

 天界など忘れて……

 ペルセポネを忘れて魔族として甥だけを想って生きればいいのに……


「ヴォジャノーイ王……」 


「これからはわたし以外の者が食料を運ぶ事も増えるだろう。信頼できる者が育ってきているからな。だから、安心してこの地で暮らせばいい」


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