ハデスから語られた過去(3)
今回は『じいじ』だった頃のハデスが主役です。
「……ヴォジャノーイ王、本当にいいの? こんな事が魔王にばれたら……」
オークが心配そうに話しているな。
「かまわない。このままでは……よくない未来に進むだろう。いつまでもこのままでは、いられないからな」
「……ありがとう。産まれたばかりの赤ん坊や幼い子がいっぱいいて……この子達を守りながら戦うのは難しいから……」
「オーク族長の子か?」
「あはは。オレにはパートナーすらいないよ」
「そうか。よく懐いていたから……」
「本当は族長なんてやりたくないんだよ。子供達を育てたり花を育てたり薬を作ったりしながら穏やかに暮らしたいんだ」
「……族長らしい考えだな」
「……ヴォジャノーイ王もそうなんじゃない?」
「え……?」
「かわいい甥と、穏やかに暮らしたいっていう顔をしているから」
「……そうか」
「よし! じゃあ皆、よく聞いて! 魔王がオーク族を消滅させようとしているらしい! 荷物をまとめるんだ! 三十分後に出発するよ!」
……優しく穏やかな族長か。
こんなオーク族を消滅させようとするとは……
さて……
次期魔王は誰にするか……
わたしが魔王を殺し次期魔王になれば簡単だが、そうなれば甥を近くで守れなくなるからな。
誰か、操りやすく悪意の無い者はいないか?
その者に魔王を殺させ次期魔王にすげ替えよう。
一番いいのはオーク族長だが、全ての魔族を統べるには優し過ぎるだろう。
こうして、大勢のオーク族と共に海の中を進む。
幼い子達は初めての海の中の移動に瞳を輝かせている。
大人達は不安そうにしているようだ。
「皆、聞いて。オーク族は魔王に目をつけられたみたいなんだ。もうすでにいくつかの種族が消されているし……ヴォジャノーイ王、いつまでオレ達を島に置いてくれるの?」
「『いつまで守ってくれるのか』とは言わないのだな」
「そこまで図々しくはなれないよ。逃がしてもらえただけで充分だよ。オーク族は泳げないから……」
「……近いうちに魔王をすげ替えるつもりだ」
「え? ヴォジャノーイ王が魔王になるの?」
「いや、それはない」
正直言えば天族だった頃の記憶があるわたしには魔族がどうなろうと関係ないからな。
だが、甥は別だ。
甥が不幸になる事だけは避けねばならない。
「なんだ。ヴォジャノーイ王が魔王になれば世界は平和になるのに」
「……え?」
魔族最恐と呼ばれるこのわたしが世界を平和に?
「今だって、魔王からオレ達を逃がしてくれているし」
「……それは……甥が望んだからだ」
「はは。そっか。恥ずかしがりやさんなんだね」
「……!? わたしが……?」
「次期魔王を誰にするか決めたの?」
「……いや、まだ適当な者が見つからなくてな……」
イフリート王なら安心して任せられるが真面目過ぎるからな。
もっと操りやすい者がいれば……
誰かいないものか……




