クッキー屋さんのジャックはかわいいよね~後編~
「そうだ。姉ちゃん聞いてよ。相談役が王様から勲章を貰う事になったんだよ」
クッキー屋さんのジャックが教えてくれたけど……
「え? お兄様から?」
「うん。ほら、この前四大国の王様達が来た時に市場を褒めてくれただろ? それは、相談役が頑張ったからだって言ってくれて。それで勲章を貰うんだ。すごいよなぁ。オレも頑張っていつか勲章を貰いたいなぁ」
「ふふ。わたしはジャックもすごいと思うけどな。だってジャックは大国のアルストロメリア王に国に来ないかって誘われたんだから」
「え? そっか! オレってすごいんだね! あはは」
「うん。わたしも市場に来たら絶対ジャックに会いたいし」
「えへへ。そんなに褒められたら恥ずかしいよ」
ジャックのこの屈託の無さが心配になる時もあるけどね。
坊っちゃんも王様達も敬語を使わないジャックを許しているけど他の貴族はそうじゃないだろうから。
ジャックのお母さんもそれをすごく心配していたよね。
「ねぇ、ジャック? 相談役になりたいならきちんと敬語を勉強してみない?」
「え? 敬語を?」
「うん。いつか、王様に勲章を貰いたいんでしょう? その時にいきなり敬語を使って緊張して話したい事も話せなくなっちゃったらもったいないよ?」
「確かに! オレ、最近まで家も無くて仕事も無くて……毎日生きるのに必死で敬語なんて習った事がなかったんだ」
ルゥの父親はどんどん苦しくなる平民の暮らしを見て見ぬ振りし続けていたみたいだからね。
……違うね。
心を病んで政を拒否していたから、悪い貴族にやりたい放題にやられていたんだ。
「……そっか」
心が痛いよ……
「平民は住んでいた家を追い出されてその家は壊されたんだ。そこに貴族のタウンハウスを建てられちゃったからオレ達は路上で生活してたんだ。ずっとお腹が空いていたし雨が降ると寒くて勉強なんてしてる余裕がなくて。でも今は王様が家と仕事をくれたから毎日お腹いっぱい食べられて幸せなんだ」
「……うん。ジャックは……幸せなんだね」
「うん! 母ちゃんも毎日笑ってて……オレはそれが一番嬉しいんだ!」
「ジャック……」
「姉ちゃん、オレに敬語を教えてよ」
「ふふ。もちろんだよ。でも、坊っちゃんに教えてもらった方がいいかもね。坊っちゃんはアカデミーで一番頭の良いクラスにいるんだよ?」
「え? そうなの? 知らなかった。じゃあ姉ちゃんは? 姉ちゃんも一番頭の良いクラスなんだよね?」
「う……えっと……一番頭の悪いクラスだけど……」
うぅ……
恥ずかしいよ。
「え? あんなに計算ができて、口じゃ誰も姉ちゃんに勝てないのに?」
「うぅ……うん。でも、皆良い子達で毎日すごく楽しいの。今度のテストで一番頭の良いクラスになろうって皆で頑張っているんだよ」
「あ、ジャック兄ちゃん達とリリー姉ちゃんも同じクラスなんだよね? 皆貴族なのに優しかったよ?」
「そういえばリリーちゃん達は相談役に会いに来ていたんだよね」
「うん。商売を教えて欲しいって相談役にお願いしに来たんだ。男爵家はほぼ平民だからって言って一緒に遊んでくれたんだよ。領地にオレくらいの弟がいるって言ってたよ」
「ふふ。ジャックは皆の人気者なんだね」
「えへへ。これからはいっぱい勉強してかわいいだけじゃなくて賢いって言われるようになりたいなぁ」
「あはは。ジャックならすぐになれそうだよ。すでに商売上手だし」
「えへへ」
この市場が貴族に虐げられても、ここまで頑張ってこられたのはジャックの前向きな明るさのおかげもあるんだろうな。
ジャックは市場の皆の希望なのかもしれないね。
 




