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少しずつ前に……

「へぇ。魔術科の皆はペリドット様から魔術を習っているのか」


 坊っちゃんは別人みたいに丸くなったね。

 少し前までは平民をバカにしていたのに。


「あの……坊っちゃん様は貴族なのにオレ達平民と普通に……あの……話してくれるんですね」


 火の魔力を使うジャックが恐る恐る話しかけているね。


「あはは。少し前まではわたしも伯爵家だからって威張っていたけど……ペリドット様に言われて気づいたんだ。大切なのは身分じゃなくて心なんだって。仲良くしたいとか、学びたいとかそういう気持ちを大切にしたいんだ。これから時代は変わる。周りの目もあるから、平民と仲良くするのは大変だし勇気も必要だけど……一歩前に踏み出したいんだ。時代を変えるのは今生きているわたし達だろ?」


「今生きている? その中に……平民のオレも……入ってるんですか?」


「もちろん! 皆は魔術の練習を頑張ってるんだろ? すごいな」


「はい。いつか……魔塔に行きたいんです」


「おお! すごいな! かっこいいよ」


「え? オレがかっこいい……ですか?」


「うん。魔術かぁ。憧れるなぁ」


 ……本当に坊っちゃんだよね?

 初めて会った時とは大違いだよ。


「ねぇ。あれ本当に坊っちゃんなんだよね? 別人みたいだけど。どこかに頭でもぶつけたの?」


 坊っちゃんの護衛達に話しかけると、嬉しそうに笑っている。


「あはは! 頭はぶつけていませんよ。あの蚕の踊りを覚えた日からすっかり穏やかになりまして。坊っちゃんを虐めていた侯爵家の貴族も最近は休んでいるみたいですし、ご機嫌なんですよ」

「そうなんです。それに、領地のお父上に蚕の件を褒められて嬉しかったらしくてもっと勉強を頑張ろうと張り切っておられます」


「へえ。あの侯爵家の貴族は休んでいるんだね」


 まあ、領地のエメラルドの採掘権をベリス王が持っているからね。

 領地は今頃大変な事になっているはずだよ。


「全てペリドット様のおかげです。本当にありがとうございました」


「あはは。それは違うよ。元々坊っちゃんはかわいかったんだよね。二人はそれを知っていたから坊っちゃんが真っ直ぐ生きられるように蚕の事で協力してくれたんだよね」


「……はい。坊っちゃんは気が弱くて周りに流されやすくて老人や子供に手をあげたりするクズでしたが、本当はただの甘えん坊の赤ちゃんなんです」

「そうですね。坊っちゃんは寝言で『ママァ』って言うような甘えん坊で意気地無しで一人じゃ何もできない弱虫ですけどかわいいんです」


 二人とも坊っちゃんが聞いていないからって普通に悪口を言っているね。

 少し前までは雇用主の悪口は言えないって言っていたのに……


「……まあ、これで坊っちゃんもメイドさんに優しくなるだろうし良かったよ」


「はい。これでアカデミー卒業後に領地に帰っても安心です」

「そうですね。オレは伯爵領に行った事が無いから楽しみです」


「そうだったね。アカデミー在学中に就職したんだよね。初めての場所だから不安じゃない?」


「不安もありますけど……今の坊っちゃんなら……オレ、どこまでも付いて行けます」


「ふふ。坊っちゃんをそう導けたのは二人だよ。よく頑張ったね」


「……! そんな……ペリドット様のおかげです。でも……平民のオレでも自分で道を切り開けるんだって分かって嬉しかったです」


「そうだよ。身分のせいで何かを諦めたり虐げられるなんて絶対にダメだから。これからのこの世界は、少しずつ変わっていくんだよ。でも、時代が変わる時は暴動や衝突が起きやすいの。皆は大変な時代を生きる事になるけど……」


「その分、オレ達の子供や孫が幸せに暮らせるんですよね」


「……うん。今を生きる皆には恩恵は無いと思うけど……」


「はい。それでも、オレは今のこの生きにくい世界を変えたいです」


 世界が変わり始めているのを感じる……

 少しずつ……

 ゆっくり少しずつ前に進んでいる。

 本当にゆっくりで誰も気づいていないかもしれないけど……

 確実に世界は動き出しているんだ。


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