尊敬される人間と嫌われる人間~前編~
「あ、いた」
魔術科の貴族が帰ったあとに、普通科の貴族の坊っちゃんが広場に入ってくる。
「あ、坊っちゃん。遊びに来てくれたの?」
「はい。あの、露店商市場に行ったら今日はまだ来ていないって言われて、だからここかなって。あ、ヒヨコ様。お土産でクッキーを買ってきましたよ? ちゃんとお金も払ってきました」
「うわあぁ! クッキーだ! ジャックのお店のクッキーだ!」
ベリアルが嬉しそうに坊っちゃんの腕に飛んでいったね。
「ヒヨコ様は今日もフワフワでかわいいですね」
坊っちゃんはすっかり丸くなったね。
あ、坊っちゃんの護衛の二人も嬉しそうに笑っているよ。
「あの……ペリドット様……」
魔術科の皆は初めて会うのかな?
火の力を使うジャックが話しかけてきたね。
「あぁ……坊っちゃんは貴族だけど露店商市場の相談役と仲良しなの」
「え? 露店商市場? でも……相談役は平民のはずですけど……」
「相談役は皆の先生なんだよ? わたしもレース編みを教えてもらっているし、坊っちゃんも蚕の事を教えてもらったんだよ」
「相談役はすごいんですね。前に相談役のお店のキャンディを食べに行った事があります。アカデミーに通う平民だって言ったらおまけしてもらえて……頑張り過ぎて身体を壊さないようにって言ってもらったんです」
「相談役は優しくて頼りになるからね。……でも、無理をしていたみたいなの。貴族からの嫌がらせとかを一人で全部対応していたから」
「そうだったんですね」
「うん。でも、貴族の騎士団員を巡回させたり、貴族の坊っちゃんも出入りするようになったからこれからは変わっていくんじゃないかな? 剣術の得意な親子もずっといてくれるようにもなったし」
「あの……貴族の……坊っちゃん様? は優しいお方なんですか?」
「ふふ。ちょっと前までは偉そうな貴族だったけど、相談役と仲良くなってからはすごくかわいくなったんだよ」
「……かわいい? えっと……そうですか」
「あはは。かわいいなんて変かな? うーん。坊っちゃんは元々素直で甘えん坊だったみたいだからね。偉そうにしなくなったらかわいく思えちゃって」
「……ペリドット様が何かしたんですか?」
「え? わたし?」
「さっき魔術科の貴族にやったみたいに、坊っちゃん様にも何かしたのかなって……」
「……ちょっとだけね。でも、よく分かったね」
「うーん。何となくですけどそんな感じがして……なんていうか……さっき、魔術科の貴族を懲らしめていた時に、悪い事をした子供を母親が叱るみたいに見えて……」
「え?」
「オレと兄弟がケンカした時にも母ちゃんはあんな感じに叱ってたから」
「あはは。そっか」
「怒りながらも愛を感じるっていうか。そんな感じでした」
「皆は今までずっと貴族からあんな風に嫌がらせをされていたんだね。でも……明日からは少し変わるかもしれないね」
「明日から……変わる?」
「あの魔術科の貴族は自分が誰かから攻撃された事が無かったから痛みとか心が傷つくとかを知らなかったんだよ。でも……それを今知ったから……少しは大人しくなるんじゃないかな?」
「……たぶん……それは無いと思います」
「ジャック……そっか。わたしよりジャックの方があの貴族を知っているからね」
「むしろ……酷くなるんじゃないかって心配で……でも、オレ……いつか相談役みたいに平民の役に立てるようになりたいんです」




