自分が同じ立場にならないと分からない事もあるよね(3)
「はぁ……じゃあ、わたしが王族ならいいの? わたしは黄金の国ニホンの王女だよ? これでいい? たかが貴族が王族のわたしに逆らうつもりなの?」
本当はこんな事は言いたくないんだけどね。
「は……? 黄金の国……? なんだ? 聞いた事がない国だぞ?」
この貴族は本当にわたしの事を知らないんだね。
「魔素に閉ざされていたからね」
「……本当に王女なのか?」
「嘘なんてついても仕方ないでしょ?」
「なんで……なぜ……王女殿下が平民なんかと……」
「身分で人間を差別するなんて愚かでしょ? 仲良くしたいから仲良くしているんだよ?」
「王族なら……王族とか貴族とかと仲良くするべきです」
「そんなのあなたの価値観でしょ? わたしは貴族のあなたより平民の皆といる方が楽しいんだよ」
「……え?」
「同じ人間同士なのに生きる価値もないとか臭いとか……あり得ないよ」
「……それは……貴族の方が優れているからで……魔力だってオレの方が強いし……」
「魔力があれば偉いの?」
「え? それは……そうですよ。誰もが羨むような魔力をオレは持っているんですから」
「いつか……その魔力を否定される日が来たら……?」
「……え?」
「遥か昔のお話だよ。でも……とある国で実際に起きた悲しい事実……魔力のある皆は絶対に聞かないといけないと思う」
「……? それは……?」
「魔女狩りだよ」
「魔女狩り? 魔女……とは?」
「普通の女性だよ。ごく普通の……魔力も無い普通のね」
「普通の女性を……狩る?」
「そう。憂さ晴らしだよ」
「憂さ晴らし?」
「天災や疫病を魔女のせいにしたんだよ。魔女狩りは、平民の不満のはけ口になっていたの。魔女は公開処刑されていたの。火あぶりだったり絞首刑だったりしたらしいんだけど……虐げられていた平民にとってはその公開処刑は観劇をするような感覚だったのかもしれないね」
「魔女は普通の女性……ですよね? 天災や疫病が魔女のせいとは? 魔女は魔力を持っていなかったんですよね?」
「魔力なんて無い世界の話だから。『ホウキに乗って空を飛んだりする』とか『呪う事ができる』なんていう意味の分からない『魔女』にされていたらしいの」
「……無実の女性を火あぶりにして平民の憂さ晴らしをした?」
「何万人も亡くなったらしいけど……もしかしたらもっと多かったのかもしれないね」
「……その話をオレにした事に何か意味があるんですか?」
「いつか……この世界もそうなったら?」
「あり得ません。魔力持ちは尊敬される存在なんですよ?」
「……今のあなたが尊敬の対象なの? 平民なんか人間じゃないなんて言うあなたが?」
「……オレは魔女じゃないし処刑なんてされません。貴族なんですよ?」
「貴族だからなんて守られる世界はいつまで続くのかな? 平民の我慢が限界に達したら……あなたみたいな人間が一番に処刑されるんだろうね」
「……罪は犯していません。オレは処刑されるジギタリス公爵とは違う」
「ジギタリス公爵……? あぁ……処刑が決まったんだね。罪状は?」
「……お妃候補殺害未遂と……王族侮辱罪。国庫を空になるほど使い込んでいたり……」
「……王族侮辱罪ならあなたもさっきしていたよね」
「え? あ……それは……」
「わたしは……赦せないよ。あなたがお兄様の悪口を言ったから。あなたを殺したかった。でも……ゴンザレスのおかげで冷静になれたの」
「ゴンザレス……?」
「浮かんでいる魚だよ」
「この……魚が?」
「わたしの代わりにあなたを攻撃するゴンザレスを見て冷静になれたの」
ゴンザレスは家族や子孫を大切に思っているのに、その子孫であるこの貴族をわたしの代わりに殺そうとしたんだ。
魔王の娘であるわたしの……ルゥのお兄様を侮辱したから。
自分の子孫の罪を償わせる為に……




