自分が同じ立場にならないと分からない事もあるよね(1)
「平民は金が無いから学生だけでこんな時間まで練習してるのか? ははは。愚かだな。オレは魔塔から優秀な講師を招いているのに」
……この魔術科の貴族は典型的なお貴族様みたいだね。
確か他にも魔術科には貴族が二人いるらしいけど今はいないみたいだ。
「「「……」」」
平民の皆が黙っちゃったよ。
さっきまでは、あんなに楽しそうだったのに。
「……? 誰だ? 見た事ない奴らがいるな」
わたしと王子達に気づいたんだね。
「わたし達はマリーちゃんとジャック達の友達だよ」
「友達……? なんだ。平民が遊びに来たのか。どうりで平民の悪臭がすると思った」
悪臭がする?
平民の皆は悪臭なんてしないのに。
「……悪臭? 平民は悪臭がするの?」
「愚かだな。平民の分際で気安くオレに話しかけるな。少しくらい綺麗だからと調子に乗るなよ」
「いつもそんな風に魔術科の皆を虐げているの? リコリス王国アカデミーでは身分差別は禁止されているはずだよ?」
「はっ! 元々貴族だけのアカデミーだったのに平民どもが入り込んできたんだ」
平民ども?
お兄様の政策をそんな風に侮辱するなんて……
「それは現リコリス王が……」
「それが愚かなんだ。こんな平民なんてアカデミーに入る資格もないのに」
「……お兄……王様が愚かだと言うの?」
怒りで身体が震えてきたよ。
「実際そうだろう? こんなまともに魔力も使えないような奴らをアカデミーに入れて何になるんだよ。しかも、学費を免除するなんてあり得ないだろ」
「……この国の貴族は自国の王様の悪口を普通に言うんだね」
「事実だろ? お前達みたいな平民は汚い市場で働いていればいいんだ」
「……汚い……市場? 露店商市場の事?」
「『立派な陛下』なんて言われてるけど、あんな市場を作ったり平民をアカデミーに入れたりして何の意味があるんだよ」
お兄様が貴族に虐げられる平民の為に作った市場が汚い?
意味がない?
「あの市場は他の四大国の王様達も真似るくらい立派な場所なんだよ?」
「はっ! 王座を守る為に平民なんかを大切にしないといけないなんてな! 惨めだよなぁ。偉くなったら平民のご機嫌とりをしないといけないんだからなぁ」
「……それ、本気で言っているの?」
「は? これだから平民は困るんだ」
「……さっきから平民、平民って……貴族なら平民を人間扱いしなくていいと思っているの?」
「当たり前だろ? 卵でも産めれば役に立つのにな。鳥よりも劣る奴らが平民だろ?」
「……どこまで愚かなの?」
「は? 愚か? お前……平民の分際でオレを愚かだと言ったのか?」
「愚かなのはどっちなの?」
「は? 平民のくせに」
「口さえ開けば平民平民って……それしか言う事がないの?」
「お前……死にたいようだな」
「ふっ。あなたにできるの?」
あぁ……
少し離れた建物の陰からハデスの怒り狂う気配を感じるよ。
でも今回はわたしが解決したいんだ。
ルゥのお兄様を悪く言うなんて絶対に赦せないから。
 




