どの種族王の傘下にも入らない種族~後編~
(はい。その種族達は魔族が遥か昔のように強くなる事を望んでいます)
心を聞けるゲイザー族長が言うのなら間違いはないんだろうけど……
その種族同士で揉めて種族王を決める事ができなかったんだよね?
(え? よくご存知ですね。その事は魔王様でさえ知らなかったのですよ? オレがその話を教えたら驚いていました)
……そっか。
じゃあ……その話をベリス王子が知っているはずがないよね。
(え?)
あぁ……
いや。
族長……
(はい?)
魔族が魔族を食べた方がいいって言った種族の事……
本当に誰だか分からないのかな?
(あぁ……はい。種族王の傘下に入らない種族の中にも派閥がありまして。穏健派もいれば過激派もいるのです。ふと聞こえてきた声でしたから誰かまでは分からなくて……)
穏健派もいるの?
過激派しかいないのかと思っていたよ。
(穏健派はもう人間を食べずに暮らしている種族です)
え?
そんな種族がいるの?
(はい。先代の魔王の時には迫害されていましたが、今の魔王様になってからは保護されて穏やかに暮らしています。というか……実際はもっと早くから保護されていたのですが。それは秘密……といいますか……魔王様が亡くなられてからはヴォジャノーイ族が保護をしていました。そして今はまた魔王様が保護をしています)
そうだったんだね。
秘密……?
わたしは知らない方がいい事なのかな?
(本人の言葉で聞いた方が良い事かと……今はまだ秘密にさせてください。ですが、とても優しく素晴らしい話ですよ? 今すぐにでも話したいほどですが……我慢します。では、話を戻しますね。もし、過激派が魔族を食べるとすればその穏健派は真っ先に狙われるはずです)
そんな……
(ですが魔王様が保護しているのでそれもないでしょう)
その穏健派はどんな種族なの?
(我らゲイザー族と同じで遥か昔から他種族と交わらずに暮らしてきた種族です)
だんだん食の好みが変わってきたっていう事なのかな?
(……そのようですね)
いつか魔族は人間を食べなくなるのかな?
(……なんとも言えませんが……でも……いつか、ぺるみ様が望む『人間と魔族が仲良く暮らす世界』が……くるのかもしれませんね)
……族長?
怖いんだね。
族長が見た未来が……
(はい……怖くてたまりません。でも……今は……なんとなくですが……未来がいい方に変わってきているように思えます。怖くてもう未来は見たくありませんが……でも……魔王様やぺるみ様が現れてから、この世界は変わり始めたのかもしれません。……いや、ハデス様が現れてからかも……)
ハデスが現れてから?
(はい。魔王様やぺるみ様が現れてからの方が目に見えて急激に変化してきましたが……今、こうして人間と仲良くする魔族を見ていて思ったのです。ぺるみ様が言った『種をまいて水をあげる』とはこういう事なのか……と)
族長……
(もうすでに種はまかれているのですね。これからは水をあげていくのです。魔族と人間が……)
……うん。
そうだね。
(これから先の未来がどうなっていくかは……今生きている我々次第なのですね)
その通りだよ。
数千年後……魔族と人間がどんな関係になっているのかは今、この世界にいる皆がどう生きていくかによって変わっていくんだよ。
(いつか……ぺるみ様の望む世界が……魔族と人間が仲良く暮らす第三地区や幸せの島のような世界が……当たり前になる未来がくるのかもしれないのですね)
簡単じゃないはずだよ?
でも……
わたしは……
そんな未来を望んでいるの。
皆が仲良く暮らす世界を……
(きっと……)
え?
(きっと……きますよ。ぺるみ様が望む未来が……)
族長……
(少し前だったらそんな風には考えられなかったはずです。でも……今は……なんとなくですが……そんな未来になるんじゃないかと思えます)
……そっか。
うん……
ありがとう。
この『人間と魔族の世界』は変わり始めているんだ。
魔族はだんだん人間を食べなくなってきているみたいだし、完全に人間を食べない種族もいる。
本当に人間と魔族が幸せに暮らす未来がくるのかも……
なんて、甘過ぎるかな?




