どの種族王の傘下にも入らない種族~前編~
こうして、わたしはモヤモヤしながら魔術科の皆と魔術の練習を始めた。
……ベリス王子はいつも通りの作り笑顔だね。
さっきのはなんだったんだろう?
「ヒヨコ様も火の力を使えるんですね」
火の魔力を持つジャックがベリアルに尋ねているね。
「そうだぞ。でも力を使い過ぎて火事にしそうになったから、しばらくは火の力は使わない事にしたんだ」
確かにベリアルは火の力を使うたびに爆発させたり火事にしたりしてきたね。
天族の時は制御できていたのかな?
「あの、ゴンザレス様とバニラ様はどんな力があるんですか?」
「ん? そういえばそうだな。ゴンザレスとバニラちゃんは何の力が使えるんだ?」
ベリアルは知らなかったんだね。
「ふふ。ゴンザレスは雷を出せるわ? わたしは……何かしらね? うーん」
バニラちゃんはわたしの神力を使っているからね。
でも、人間の前ではそんな事は言えないよね。
「ゴンザレス様は雷の力を使えるんですか? すごいなぁ」
「……」
本当はゴンザレスじゃなくてゲイザー族長だからね。
人間と話すのは嫌なのかな?
それとも声でゴンザレスじゃない事がばれそうだから黙っているのかな?
(あぁ……本当は話したいのですが……話し始めたら止まらなくなりそうだから黙っているのです)
……!
そういえばゲイザー族はずっと他種族と話してこなかったからおしゃべりしたくて仕方ないんだったね。
(褒められて、話さなくていい事まで話しそうで心配なのです)
族長……
そうだね。
黙って頷くくらいにした方がいいかもね。
(あぁ……本当は話したいのに……)
ふふ。
わたしがいくらでも話を聞くから、今は我慢してね?
(本当ですか!? ではでは、アカデミーから帰ったらゲイザー族全員の話を聞いてください!)
ゲイザー族全員?
五人がずっと話し続けるから聞き取れないんだよね……
それでも良ければ。
(うわあぁ! 楽しみです)
ゲイザー族は今までよくおしゃべりを我慢できたね。
(いやぁ。今は解放されてずっと魔王様に話しかけていますよ)
お父さんに!?
(はい。始めは聞き取れなかったみたいですが今では一人一人にきちんと相づちや返事をしていますよ? さすがは魔王様ですよ)
……わたしにはとても真似できそうにないよ。
(……ぺるみ様)
ん?
(ぺるみ様は魔王様によく似ておられますね)
そうかな?
(はい。思いやりがあって優しくて……おひとよし?)
おひとよし?
あはは。
そうかもね。
純粋で真っ直ぐっていうか……
良い意味でも悪い意味でもね。
(魔王という地位は……決して楽なものではありません)
……うん。
先代の魔王はかなり酷かったらしいね。
(魔族は変わる……今がその時なのかもしれません)
魔族が変わる?
(今の魔王様のやり方は種族王達の手本となっています。ですが……)
そうは思わない種族もいるんだね。
(……はい)
そういう種族からしてみればイフリート王が次期魔王になるのは気に入らないだろうね。
(よくご存知ですね)
どの種族王の傘下にも入らない種族がいるらしいね。




