内緒話~後編~
「ぺるみ様……? ヨシダのおじいさんとは……確かマンドラゴラの赤ちゃんでしたね? わたしはその秘密が明かされた時には、もう幸せの島にはいませんでしたが……」
グリフォンのお兄ちゃんが首を傾げているね。
相変わらずかわいいよ。
「うん。吉田のおじいちゃんって……何となくだけど、変な感じがしないかな?」
「……? えっと……それは、すぐに裸になりたがる……とかですか?」
「それもあるけど……わたし達はずっと側にいたから、おかしいとは思っていなかったの。でも、思い返してみれば、確か初めてドラゴンに会った時に変な気配がする、みたいな事を言われていたの。その時、吉田のおじいちゃんは裸踊りの最中で裸だったから、そのせいかなって思っていたんだけど……」
「……何かおかしな事があるのですか?」
「うん……ぺるぺるって呼ばれたの」
「え? ぺるぺる……ですか?」
「うん。遥か昔、まだ天界にいた頃、わたしをそう呼ぶ人が一人だけいたの」
「……え? あの……それは?」
「わたしのひいおじい様……ウラノス」
「……? ひいおじい様ですか?」
「うん。この世界の初代の神様だよ? お父様のおじい様なの」
「あの……ヨシダのおじいさんは異世界の人間のはずでは?」
「うん。ひいおじい様は行方不明になっているの」
「え? それは?」
「遥か昔にね? ハデスの父親に……切り落とされた大事なところを海に捨てられたみたいで、それから行方不明なの」
「……? ですが、今の話からすると、ぺるみ様がお産まれになる遥か昔に、おじい様は行方不明になっているのではありませんか?」
「うん。誰もいない時に『内緒だよ』って言って何度か会いに来てくれたの」
「その事はハデス様には?」
「まだハデスに出会う前だったの。ハデスは天界の事は聞きたがらなかったし。冥界には神でも簡単には入れないから、ひいおじい様も入れなかったの。それに、会いに来た事がばれたら消滅させられるって泣いていたから誰にも言えなくて」
「ぺるみ様は……ヨシダのおじいさんをおじい様か確認したいのですか?」
「あのね? たぶん……とかじゃなくて絶対におじい様なの」
「絶対に……?」
「うん。天界の時も群馬の時も今も、どうして気づかなかったんだって思うくらいやっている事が同じなの」
「同じ……ですか? 天界でも裸踊りをしていたのですか?」
「さすがに服は着ていたけど、あの踊りだったよ?」
「ぺるみ様を案じて異世界のグンマに行っていたのでしょうか?」
「うーん……分からないけど、でも元神様だから魔王のお父さんの事も怖がらないし、冥界で一日の八時間を過ごせばいいっていう事も分かったのかなって……」
「確かに、そうですね……」
「それでね? お願いがあるの」
「はい。わたしにできる事でしたら」
「おじい様の切り落とされた大事なところを見つけてもらえないかな?」
「え? 天界ではなくこの世界にあるのですか?」
「そうみたいなの。海の事だから魚族長に頼めばいいんだろうけど、ハデスに近いから頼みにくくて」
「確かに、魚族長はハデス様の完全なる下僕……いや、あの、尊敬? と言いますか……」
言い直したね……
「お兄ちゃんはいつも通り旅をして、時々この子に魔法石を詰め替えて欲しいの」
「この子……? ですか? ……あ、これは」
「うん。ドワーフのおじいちゃんが改造してくれた、あの時のおもちゃだよ?」
緑色をした小さい鳥のゼンマイのおもちゃを見せる。
「わたしの神力でおじい様の切り落とされたところを見つけられるようになっているの」
「切り落とされたところ……」
「でも、途中で神力が切れちゃうはずだから、わたしが用意した神力入りの魔法石を入れ替えて欲しいの」
「……それは構いませんが。この事はハデス様には秘密にするのですか?」
「……もしおじい様が消滅させられたらって考えたら、とても話せなくて」
「そうですね……ぺるみ様? あの、切り落とされた部分とは身体のどの部分なのでしょうか? 大きければ、わたしも探せるかと」
「え? 大きいかは分からないよ? 基準が分からないし」
「基準……ですか?」
「うん。だって女のわたしには、ついていないし」
「え? え? ええぇえ!? あの部分!?」
お兄ちゃんの大きい猫みたいな足が内股になったね……
こうして、わたしとお兄ちゃんの二人だけの秘密ができた。
吉田のおじいちゃんにはわたしが気づいていないと思わせておこう。
もし気づいたって知られたらまた行方不明になっちゃいそうだから。
おじいちゃんは寂しがりやさんだから、一人にはしたくないんだ。