厳しい身分制度の中で~後編~
「でも、そんな平和そうな国にも問題はあるんだよ? 皆が平等っていっても格差はあるから。一部の豊かな人達と普通に暮らす人達、日々食べるのに苦労する人達。リコリス王国の平民からしてみれば夢みたいな国でもそこに暮らす人達には問題があるんだよ。全部の人が幸せなんていう国は無いのかもしれないね」
悲しいけど、それが現実だよ。
「全部の人が幸せにはなれない……」
ジャックが悲しそうに呟いたね。
「うん。でも……わたしはいつか必ず皆が幸せに暮らせる世界がくると思うんだ」
「ペリドット様……このリコリス王国も……いつか貴族と平民が仲良く暮らせる日がくるんでしょうか」
「くるよ。絶対に。でも、望まなければ……そうなるように行動しなければ何も変わらないんだよ。誰かが変えようと思わなければ何も変わらずに時だけが経っちゃうんだよ」
「オレみたいな平民がそんな事はできません。貴族に虐げられないように息を殺して生きるので精一杯なんですから」
「……それでいいんだよ」
「え?」
「誰かが犠牲にならないといけないのなら、そんなのは違うから」
「ペリドット様?」
「ゆっくりゆっくり世界は変わっていくんだよ。そして……今は過去になる」
「……?」
「寂しいけど……それが現実だから。だから……今を一生懸命生きないとダメだよね?」
「……オレにはよく分からないです」
「……うん。えへへ。わたし自身に言ったの」
「え?」
「ふふ。お金持ちで威張っている貴族に『ぎゃふん』って言わせちゃお?」
「ギャ……? え?」
「ふふ。平民だってこんなにすごいんだぞって分からせるんだよ」
「……そんな事は無理ですよ」
「できるよ。今皆がやらないといけないのはそれぞれの魔術を使いこなせるようになる事だね」
「ペリドット様……オレは貴族に目をつけられないようにしたいんです。でも、魔術戦には出たくて……」
「うん。分かるよ? 貴族の枠を奪って嫌がらせをされたくないんだよね」
「……はい」
「難しいね。もしかしたらその貴族も魔塔に行くかもしれないし……そうなれば一生嫌がらせをされ続ける事になるんだから」
「……はい」
「だったら、ジャックがその貴族に認められるように魔術を磨くしかないよ」
「え?」
「誰からも見くびられないように強くなるんだよ」
「……そんな事ができるんでしょうか」
「腕力や魔力でねじ伏せろって言っているんじゃないよ? 誰もが認める立派な人間になればいいんだよ。露店商市場の相談役は平民だけど王様や貴族にも尊敬されているんだよ?」
「……露店商市場の相談役?」
「口で言うほど簡単じゃないよ? でも……やろうとしなければ変わらないんだよ。ほんの少しの勇気なんかじゃないよね。ジャックは今まで貴族に虐げられてきたんだから。かなり勇気が必要だよね」
「……やっぱりオレには勇気が出ないです。ごめんなさい。オレ……こんな意気地無しで……」
「いいんだよ? 皆が自分のペースでゆっくり前に進めばいいんだから」
「自分のペースで……」
「疲れたら立ち止まりながら、歩ける時になったらゆっくりゆっくり一歩ずつ進めばいいんだよ」
「……はい」
「ふふ。今は魔術を使いこなせるように頑張ってみよう? 難しい事はひとまず忘れて。どうかな?」
「はい。こんなオレだけど火の使い方を教えてくれますか? オレ……身勝手ですよね。魔力を使いこなしたいけど貴族からは虐げられたくないなんて」
「身勝手なんかじゃないよ。世の中は綺麗な事ばかりじゃないから。でも……全ての辛い事がずっと今のまま続くわけじゃないよ? だから……少しずつ前に進もう?」
「……はい」
ジャックは、よほど貴族に虐げられてきたんだね。
お兄様はこの身分格差の酷い現状をなんとかしようとしているみたいだけど……
簡単にはいかなそうだね。




