大声大会とクリームブリュレ(4)
「……うん。ダメだよ……」
電池をこの世界に持ち込んだらダメだよ。
あれ?
大量のヒヨコちゃん達が消えた?
「ぺるぺる……そう遠くない未来に……向こうの世界は消滅するだろう」
……消滅する?
吉田のおじいちゃんが辛そうな顔をしているね。
そんな……
消滅?
……いや、分かっていたよ。
もう長くはもたないだろうって……
人間の暮らしを豊かにする為。
それと、度重なる酷い戦争で……わたしが月海として暮らしていた頃からあの世界は悲鳴をあげていた。
戦争の無い日本にいたわたしには分からなかったけど……
ニュースの中だけに見える『世界』は戦争をしていた。
戦争は……殺し合いだよ。
誰かが誰かのお父さんを殺して、誰かが誰かの息子を殺す。
戦地で生き残る為にはそうするしかなくて……
国を……大切な人を守る為にはそうするしかなくて……
戦地ではそれが日常なんだ。
普通に暮らしていれば人殺しは重罪だけど、戦地では大量に殺した方が勝ちなんて……
どうしてこんな簡単な矛盾に気づかないの?
この世界に来て思ったんだ。
魔族は人間を食べるけど必要以上には殺さない。
でも……前の世界ではニュースの中の子供達や一般人は普通に暮らしていただけなのにいきなり攻撃されて……
一瞬で命を奪われて……
いや、違うよ。
『痛い痛い』って苦しみながら殺されたんだ。
どれだけ怖かっただろう。
きっと、いきなり過ぎて何が起こったのかも分からないうちに痛くなって苦しくなって……
何も分からない中で傷だらけの身体で震えながら死んでいったんだ。
もう前の世界は長くない……
どうしたら、それを止められる?
どうしたら、それを遅らせる事ができる?
きっと無理だ。
便利過ぎる生活に慣れ過ぎて……
今の豊かな暮らしをやめる事なんてできないよ。
偉い人間の決めた戦争を兵士が実行して……
一般人は空爆されて……
いつも弱い立場の人間が酷い目に遭う。
誰も破滅への道をとめられない……
「ぺるみ? どうした? モグモグ」
あぁ……
ベリアルは、そこにいたんだね。
二位の賞品の特別なマフィンを食べているよ。
「……うん」
こんな話はできないよね。
「もしかして、オレが四位のマフィンを食べたと思ってるのか? そんな事するはず無いだろ? ほら、ぺるみの分のマフィンはちゃんとあるから。全く、食いしん坊だな」
……ベリアル。
「ぺるぺる……考えたって仕方ねぇさ。もうなんともならねぇところまで来たあの世界をとめられるのは……『最期の時』を遅らせる事ができるのはあの世界に生きる人間だけだ」
吉田のおじいちゃんはわたしよりももっと辛いはずだよ。
「……うん」
「ほら、食べろ。お月ちゃんのマフィンは最高だからなぁ」
「……うん。わたし……絶対に向こうの世界の物を持ち込んだり創り出したりしないよ。……でも、どうしてヒヨコちゃんの電池で動くおもちゃが大量に出てきたのかな?」
「ヒヨコちゃんへの気持ちが溢れちまったんじゃねぇか?」
「それでヒヨコちゃんのおもちゃが大量に?」
「まだぺるぺるが小さい頃に似たようなおもちゃを持ってたからなぁ。無意識に創り出しちまったのかもなぁ」
「無意識に……?」
だとしたら気をつけないと……
二度と同じ事をしたらダメだ。
「……でも、電池を使ってねぇならいいんじゃねぇか?」
え?
吉田のおじいちゃん?
「でも……わたし……怖いよ……」
「ぺるぺるも創造する時が来たんだなぁ」
「創造?」
「強い力を持つ奴は創造できる事が多い。ぺるぺるもそのうちの一人だったんだなぁ」
「わたしが創造できる?」
ポセイドンが桃製造マシンを創ったり、吉田のおじいちゃんがこの世界を創ったみたいに?
「いきなりでかい物は創れねぇだろうけどなぁ。今みてぇに無意識に何かを創り出さねぇように気をつけろ?」
……無意識に?
おじいちゃんの言う通りだ。
気をつけないと……




