前に向かって(5)
「子うさぎめ……わたしはペルセポネの夫だ。子うさぎは脳ミソが小さいからもう忘れたのか?」
ハデスとうさちゃんのケンカが始まりそうだね。
「……キョウコソ、ペルセポネノ、マエカラ、オマエヲ、ケシテヤル」
「どちらが強いか決着をつける日が来たな」
うさちゃんとハデスが勝負を始めそうだよ!?
どうしよう。
二人が本気でやり合ったら幸せの島がなくなっちゃうよ!
「キョウコソ、オレノホウガ、カワイイ、カイガラヲ、ミツケル」
「わたしの方が美しい貝殻を見つけるのだ」
「ショウブダ!」
「勝負だ!」
貝殻?
ケンカじゃないの?
二人の声が重なったね。
本当はすごく仲良しなんじゃないの?
「あはは!」
「仲良しさんだなぁ! あはは!」
「父親と息子みてぇだなぁ! あはは!」
第三地区の皆の言う通りだね。
ハデスとうさちゃんが波打ち際で貝殻を探している後ろ姿を、穏やかな気持ちで見つめている。
……これからも出会いと別れを繰り返しながら永遠の時を生き続けるんだね。
グリフォンのお兄ちゃんが言っていた。
永遠の時を生きるのが辛くなったら……ルゥの家族がどれだけルゥを愛していたかを思い出して欲しいって。
ルゥの身体を勝手に使ったわたしを責めなかった、おばあ様とお兄様……
きっとすぐにお別れの時がくるよ。
ルゥの家族は人間だから……
ルゥだった時……
大切な人達を不幸にして生きている自分に絶望して……わたしは自殺した。
そして、ハデスは後を追って……
わたしはバカだよ。
おばあ様とお兄様の大切なルゥの身体を傷つけたんだ。
もう二度とそんな事はしない。
ペルセポネの身体に戻った今も……もしわたしが自殺したら……
わたしがファルズフに刺殺された時、酷く傷ついたお父様とお母様の辛さを知っているから……
もう二度とわたしの為に誰かに泣いて欲しくないんだ。
今までいろんな事があったね……
でも……
今は……
すごくすごく幸せだよ。
大好きな家族と笑って暮らせる事が一番の幸せだって、わたしは知っているから。
ひとりぼっちになった時のあの辛さは……もう二度と味わいたくない……
「ハデス! うさちゃん! わたしも一緒に貝殻を探したいよ!」
「お? いいなぁ。じゃあ、じいちゃんも探すか」
「よし! じゃあ、誰が一番かわいい貝殻を探すか勝負するか? あはは!」
「それは楽しそうですね」
ふふ。
いつの間にか貝殻探し大会が始まったね。
夜が明けたから砂浜がよく見えるよ。
ん?
夜が明けた……?
「ああー! アカデミーに遅刻しちゃうよ!」
色々ありすぎてすっかり忘れていたよ!
「しまった! 朝飯を作ってねぇぞ?」
「とりあえず制服に着替えろ!」
「食パンをくわえて出発しろ。あとから朝飯を届けるから! あれ? 焼きまんじゅうしかねぇかもしれねぇなぁ」
第三地区の皆も慌て始めたね。
さすがに焼きまんじゅうをくわえて『遅刻遅刻』って走るのは無理だよ!
おいしいけど口の周りがベットベトになっちゃうから。
「とりあえず第三地区に戻るぞ!」
「走れ!」
「あはは! 誰が一番に着くか勝負だ!」
ふふ。
皆、楽しそうだね。
慌ただしくて、うるさいくらいに賑やかで。
でも、最高の家族。
えへへ。
わたし……今、すごくすごく幸せだよ!




