前に向かって(2)
「……ずっと……抱きしめたかった。オケアノス……」
おばあちゃんが毛玉の姿のバニラちゃんを優しく抱きしめている。
「ガイアがお月ちゃんとして生きていくと決めたように、わたしもバニラとして暮らしていきたいの。だから……今まで通りバニラと呼んで欲しいわ」
バニラちゃんのしっぽが嬉しそうに揺れているね。
「……分かったわ。バニラちゃん……これからも抱きしめていい?」
「そんな事……訊く必要はないわ。いつでも……抱きしめればいいの。……わたし達は親子なんだから……」
「……親子……バニラちゃん……これからはずっと一緒よ? もう二度と手離さない……」
「……わたしも」
わたしに抱きしめられているベリアルが泣いているね。
感動したのかな?
「痛い! うわあぁん! うさちゃんが叩いたぁぁ!」
「ウルサイ。コレダカラ、ヒヨコハ、ダメナンダ」
……そういえば、うさちゃんを抱っこしたままベリアルを掴まえたんだった。
「うわあぁん! 痛いよぉ!」
「イタイハズ、ナイダロウ。オレノテハ、フワフワダゾ?」
「でも……でも……叩かれたよぉ!」
フワフワの前足で叩かれて泣くヒヨコちゃんと、気が強いウサギちゃん……
かわいい……
興奮が止まらないよ!
「ぐふふ。ぐふふふ。堪らないよ。二人とも吸わせてもらうよ! スーハースーハー……ああ! 幸せっ!」
「うわあぁん! ど変態に吸われるよぉ!」
「ダマレ、ヒヨコハ、コレダカラ、ダメナンダ! ペルセポネハ、セカイイチ、カワイインダカラ、ウレシイダロウ!」
「そうか……うさちゃんはぺるみを娘みたいに思っている親バカだった」
「オレハ、オヤバカ、デハナイ。ペルセポネハ、セカイイチ、カワイイ」
「うわあぁん! あれ? 待てよ? オレはバニラちゃんの心から生まれて、うさちゃんはバニラちゃんの闇の力から生まれたんだよな……じゃあ……オレ達は兄弟なのか!?」
ベリアルの言う通りだね。
生み出された時間はベリアルの方が早いから、ベリアルがお兄ちゃんだね。
「……ココロカラ、イヤダガ、ソウイウ、コトダ。シカタナイ。キョウカラ、オマエハ、オトウトダ」
「ええ!? さっきの話だとオレが兄ちゃんだろ!?」
「オマエハ、ヨワイ、チビヒヨコ、ダカラ、オマエガ、オトウトダ(ダカラ、マモッテヤル)」
ん?
今、小声で何か言わなかった?
「……!? チビじゃない! うさちゃんの方が小さいだろ!? オレが兄ちゃんだろ! 兄ちゃんだ!」
「オマエハ、スコシ……イヤ、カナリ、ヤセロ。マンマルデ、ボール、ミタイダゾ」
「……!? うわあぁん! オレはかわいいから今のままでいいんだもん! うえぇぇん!」
オレはかわいいから今のままでいいんだもん?
超絶かわいいヒヨコちゃんの姿だから赦されるけど……天族の姿だった時のベリアルをよく知っているハデスが絶句しているね。
バニラちゃんの話だとベリアルは遥か昔、かなりの甘えん坊だったみたいだし……
これが、本来のベリアルの姿なのかもしれないね。




