前に向かって(1)
「じゃあ……バニラちゃんは……オレの心を生んでくれた母親……なんだな」
ベリアルが、しっかりとバニラちゃんの瞳を見つめて話しているね。
「……怒っていないの? わたしはベリアルに罪を……わたしの愚かな行いを全てベリアルのせいにしたのに」
バニラちゃんが申し訳なさそうにしているよ。
「オレは……ずっとバニラちゃんの中でバニラちゃんにかわいがられていたんだな」
「……これだけは……胸を張って言えるわ。わたしは遥か昔……生み出した心であるベリアルを愛していたわ。もちろん今も。愛しくて吸いつきたいほどに……スーハースーハー」
……!?
バニラちゃんがベリアルの隣に来て吸いついてスーハーしている!?
なんて羨ましい!
……じゃなくて、なんて微笑ましい親子愛なの?
羨ましい……
ベリアルも嬉しそうにしているし。
わたしも吸いたいよ……
「くすぐったいよ。あはは。これからはずっと一緒にいられるか?」
「もちろんよ。毎日吸って撫でて撫で回すわ! スーハースーハー。ぐふふ」
……バニラちゃんはわたしで、わたしはバニラちゃんか。
この変態の姿は自分を見ているようだね。
「うわあぁ! やったあ!」
……!?
やったあ!?
嬉しいの!?
わたしが吸うと嫌がるのに、どうして!?
「ちょっと! じゃあ、わたしも吸いたいよ!」
「はぁ!? お前はオレの母親じゃないだろ!? ばあちゃんとバニラちゃんは吸ってもいいけど、ぺるみはダメだ! 全く、これだから変態は困るんだ」
「変態……バニラちゃんだって変態でしょ!?」
「バニラちゃんは母親だからいいんだ!」
「じゃあ……えっと……あ! そうだ! あの時、ほら、ヒヨコちゃんになったベリアルはわたしの中から出てきたんだから、わたしもママだよ! 吸わせて!」
「……お前、必死だな。とにかく気持ち悪いぞ」
「ほら、恥ずかしがっていないで、おいで!」
「……」
「ええ!? どうして無言なの!? ほら、抱っこおいでよ!」
んもう。
恥ずかしがりやさんなんだから。
「ふふ。ベリアルとペルセポネは仲良しね」
バニラちゃんは、おばあちゃんと同じ事を言っているね。
「仲良しなんかじゃないよ! ぺるみはただの変態なんだから!」
……!?
ベリアル!?
まさか心からわたしを嫌ってなんていないよね?
きっと恥ずかしくて、吸われたいのに素直になれないんだね。
それにしても……
吸いたい……
ベリアルを吸って撫で回したいよ!
「ただの変態じゃないもん! ど変態だもん! ぐふふ。もう限界だよ。吸わせてもらうからね!」
「うわあぁん! バニラちゃん、ばあちゃん! 助けて!」
「逃がさないよ! スーハースーハー……あはは。幸せの匂いがするよ。スーハースーハー……」
色々あったから落ち着くよ。
メイプルシロップみたいな甘い匂い……
ぐふふ。
堪らないね。
「あははは。ベリアルはかわいいなぁ」
おばあちゃんが笑っているね。
「当たり前よ。わたしの子であり、お月ちゃんの子でもあるんだから」
バニラちゃんも笑っている。
バニラちゃんとおばあちゃんの子……か。
バニラちゃんは、ベリアルをおばあちゃんの子だって認めたんだ。
ていう事はバニラちゃん自身もおばあちゃんの子だって認めたんだね。
まだ、全てを赦せたわけじゃないだろうけど……
「『お母様』とは……まだ呼べないわね。ごめんなさい。欲張ってしまって」
おばあちゃんが悲しそうにしているね。
「……今はまだ呼べないわ。でも……気持ちが落ち着いたら……その時は……」
バニラちゃんのしっぽが嬉しそうに揺れている。
気持ちは隠せても、身体に喜びが溢れているよ。
おばあちゃんも揺れるしっぽに気づいたみたいだね。




