オケアノスから語られた真実(5)
今回はオケアノス(バニラちゃん)が主役です。
『どうして身体に入れないんだ。あいつは魔族の姿になったり天族の姿になれるのに、どうしてオレにはできないんだ。救いたいのに……生きて欲しいのに……どうして入れないんだ』
オレは結局聖女を救えなかった。
そして……もう死が目の前に迫っていた。
父親のあいつがオレに言った。
『魔素の無い世界に行こう』と。
だが……
どこに行こうがオレはもう死ぬだろう。
身体が限界なんだ。
オレはあいつにこう言った。
『すまない。オレは……もう生きていたくないんだ。オレは化け物だから。もう人間の家族とは共に暮らせない。きっと妻と娘があの世で待っているはずだから。それに……もう……疲れた……知っているんだろう? オレの心が醜いと。だから……もう疲れたんだ』
あいつに弱い部分は見せたくなかった。
だが……
オレは長過ぎる時をあいつと……友として過ごしていたんだ。
結局オレはあいつを赦したのか?
オレは最期の力を振り絞った。
そして、オレの闇の力を魔法石に入れ込んだ。
もしかしたら、この闇の力を使えば聖女を蘇らせる事ができるかもしれない……
結局、オレの強過ぎる闇の力を受け入れられず魔法石は砕けてしまった。
欠片に残る弱い闇の力では死者を蘇らせる事はできないだろう。
こうしてオレはベットに寝たまま最期の時を待った。
魔法石の欠片からウサギのような生き物が生まれていたようだったが、オレはまともに目も開けられないほど衰弱していた。
この生き物はオレが死んだらどうなるんだろう。
オレみたいに親の無い子になるのか?
あぁ……
オレの心の中だけに生きる子はオレと共に死ぬのか……
かわいそうな子……
ずっとオレを支えてくれた愛しい子……
オレの心の底でずっとオレを見守ってくれた。
お前は心の中でずっとこう言っていたな。
『オレを好きならやってくれるよな? 頭を撫でてくれるよな? オレを好きなら抱きしめてくれるよな?』
どこまでも甘えん坊だったな……
すまない……
オレは……悪い父親だ。
お前がオレの中に現れる前は、必要もないのに人間や魔族を大勢殺した。
ただの憂さ晴らしだった。
子孫と穏やかに共に暮らせない辛さや、父親と母親への感情を殺しに向けてしまった。
オレは酷い奴だ。
オレの為に創られた世界にいる生き物ならオレの子も同じなのに……
どこまでも愚かだな……
オレは……生きる価値もない……
こうしてオレは死んだ。
大嫌いなあいつに看取られながら。
いや、違うな。
あいつに自害させられたんだ。
あの頃はまだ酷い場所だった冥界に行かないように。
オレは刺されても痛くないように眠らされた。
だが……
あいつの『すまない。赦してくれ……』という声……
『本当に本当にすまない』という心の声……
心の声と口から出る声が同じあいつに、オレは……
少しだけ心が穏やかになるのを感じた。
そして……
どれだけの時が経ったんだろう……オレの魂はゼウスとデメテルの娘の身体に入れ込まれた。
オレは娘によく似た輝くような白い髪に青い瞳の赤ん坊になっていた。
そして、決めたんだ。
これからは誰の事も恨まずにただ幸せに生きようと……
だが……
そうは、なれなかった。
父親のあいつ……ウラノスは主治医を使いペルセポネに毒を飲ませ続けた。
オレの強過ぎる悪意にペルセポネが耐えられない?
だから毒で悪意を軽減させる?
そんなはずはない。
オレにそんな酷い悪意はない。
実際は、ペルセポネの身体がオレの魂を受け入れる事を嫌がっていたからだったようだが、ウラノスはそんな事を考えもしなかった。
ただ、オレを悪者だと決めつけていたんだ。
オレが悪だから毒で押さえつけようとしていたんだ。




