勇気を出すって簡単なようですごく難しいよね(4)
「だが、ベリアルの身体に入ってもオレはベリアルの魂に吸収される事はなかった。その時思い出した。そうだ、前にベリアルが創った毛玉の姿のぬいぐるみがあった……と。オレはその身体に入り込みペルセポネの力を使おうと決めた。元々ペルセポネの魂であったオレは、この毛玉の姿でもペルセポネの力を引き出して使う事ができるはずだと。案の定オレは離れていてもペルセポネの力を使う事ができた。全てが思い通りに進んでいった」
オケアノスは復讐の準備を少しずつ進めていったんだね。
でも心では葛藤していたんだ。
「あとは、古代の闇の力だけだ……その力さえあればこの世界を滅ぼせる。そう思った。だが……星治には愛する娘を攻撃できるはずがなかった。星治は、群馬に置いてきた月海を愛していた。魔王になりこの世界を統べたのも愛しい娘がこの世界に転移してきた時に苦労させない為だった。こんな父親に娘を攻撃させるわけにはいかない。……だが、古代の闇の力がなければこの世界を滅ぼす事はできない。オレは……もうどうしたらいいのか分からなくなった」
あぁ……
想像した通りだった。
お父さんの古代の闇の力をわたしに吸収させようとしていたんだ。
でも……オケアノスは優しくて、お父さんにそんな事をさせられなかったんだ。
「そして……今この時を迎えた」
オケアノスが静かに目を閉じた。
「オレの名は……オケアノス。そうだ……あの子でもその子でもない。オレには名があった。だが、人間はオレを化け物と呼び……魔族もオレを名で呼ぶ事はなかった。そうだ、オレには名など無かったのだ。誰からも呼ばれぬ名を……オレさえも知らない名をつけられ、親の顔も知らずに捨てられた。今になってその名を呼ばれたところで……」
「オケアノス……抱きしめてもいい?」
おばあちゃん……
勇気を出したんだね。
「わたしも……オケアノスを抱きしめたい……」
おじいちゃんも震える声で話しかけたね。
「……オレは……オレの怒りはどこにぶつけたらいいんだ? ガイアはオレをずっと見守って、愛してくれた。ウラノスはずっと側にいてくれた。分かっていたさ。……オレは……捨てられた。だが……愛されてもいた。じゃあ……オレのこの感情はどうしたらいい? オレのせいでこの世界に産まれた娘や聖女を……その苦しみを……赦すなんてできない……」
……?
聖女の苦しみ?
オケアノスは聖女の身体を乗っ取ろうとしたわけじゃなかったんだ。
じゃあ、お花ちゃん達から聞いたあの話は?
あ……おばあちゃんと吉田のおじいちゃんがオケアノスを抱きしめた。
「オケアノス……お願いよ。全てを話して? わたくしは……お母様はオケアノスの言葉で聞きたいの。オケアノスの声で全てを知りたいの。もっと早くに抱きしめるべきだったわ。もっと早くに……そうすればオケアノスをこんなに苦しめる事はなかった……」
おばあちゃん……
泣いているね。
おじいちゃんも泣いているよ。
「……オレは……待っていたんだ……いつか……母親が話しかけてくれるのを……母親が迎えに来てくれるのを……」
……?
話しかける?
迎えに来る?
「ごめんなさい。あの頃のお母様は勇気を出せなくて……泣く事しかできなくて……」
「……オレは……ずっと……いつか話しかけてくれる日を……待っていた……」
「遅くなってごめんなさい。数千年も待たせてしまって……」
「必ず……迎えに来るって……あの言葉を……ずっと……信じていた……話そう。全てを……オレの口から……」
こうして、オケアノスは話し始めた。
今まで誰も知らなかった真実を……




