やり直すなんて簡単にはできないよ(4)
「そっか……うん。そうだよね。バニラちゃんは不安なんだよ。その気持ちが安心に変われば絶対に仲良くなれるよ。だから……わたしを守る為に……バニラちゃんを傷つけないで?」
うやむやにしたらダメだよ。
わたしは群馬でおばあちゃんを喪っているんだから。
二度とあんな思いはしたくないんだよ。
「……! 今の話が聞こえていたの?」
おばあちゃんが動揺しているね。
「今のわたしには心の声を聞く力はないよ? でも……わたしは月海なの。おばあちゃんの孫なんだよ。ずっと一緒に暮らした家族なの。もし……バニラちゃんが復讐をやめなかったら……」
これ以上は口に出したらダメだよね。
おじいちゃんとおばあちゃんはもう傷つきすぎるくらい傷ついているんだから。
「……命を……奪うわ。違うわね。魂を消滅させる為に自害させるわ」
おばあちゃんの声が震えているよ。
「……おばあちゃん」
「そして……わたくしとウラノスも……共に自害するわ」
……やっぱり。
おばあちゃんならそう言うと思ったよ……
「分かっていたよ。おじいちゃんと二人で心の中で話していた時から……」
「本当に……かなわないわね……ペルセポネ……あなたは……神にふさわしいわ」
「……え?」
わたしが神様にふさわしい?
「けれど……ペルセポネはザクロを食べているから……神にはなれないわ。それで良かったのよ。愛しいハデスちゃんといつまでも幸せに暮らすのよ?」
「これが最後みたいな事を言わないで……」
「ペルセポネ……」
「わたしは群馬でおばあちゃんを助けられなかった……もうあんな事は嫌なの。雪の中で冷たくなっていくおばあちゃんを……今でも……ずっと……あの時の身体の震えを忘れられないの。二度と喪わない……わたしは二度とおばあちゃんを見殺しになんかしない」
「見殺し……違うわ……ペルセポネ……」
「旅になんて出なくていいの。幸せの島で……第三地区で……穏やかにゆっくり家族になればいいんだよ。親子としてやり直せばいいんだよ」
「ゆっくり……? あの子は絶対に復讐をやめないわ。このままだとこの世界も……ペルセポネも……皆……」
「だから……命を奪って自分達も自害するの?」
「そうするしか……ないのよ……」
「バニラちゃんは迷っているんだよ。本当に復讐をしてもいいのかって……親としての一番最初の仕事は名前をつける事なんだよね? お花ちゃん達とそう話したでしょう? バニラちゃんには……本当の名前があるんじゃないかな?」
「……ええ。あるわ」
「じゃあ、その名で呼んでみたらどうかな? バニラちゃんは遥か昔に二人の心を聞いていたんだよね? じゃあ、きっと名前を知っているはずだよ? もしかしたら……名前で呼んで欲しいんじゃないかな? あの子とかその子とかじゃなくて……ちゃんと名前を呼んで欲しいんじゃないかな」
親の気持ちのこめられた名前で呼んで欲しいはずだよ?




