お花ちゃんと幸せの島
「ここが幸せの島ですか。花が美しいですね」
お花ちゃんは花が好きなんだね。
「パパがママの好きなダリアをたくさん植えたの。お花ちゃんと熊太郎の島も花でいっぱいになったら素敵だね」
「はい。彼は植物や小動物が好きなのです」
「そうなの? 熊太郎はパパにそっくりだよ。パパも花とかわいいモフモフが大好きなんだよ?」
「モフモフ……?」
ふふふ。
ちょうどいいところにベリアルが飛んできたね。
見つけたら吸うと決めていたんだよ。
掴まえちゃおう。
ぐふふ。
「うん! こういうかわいいフワフワな子の事だよ?」
やっぱりベリアルはフワフワでかわいいよ。
「うわあぁ! ぺるみ! やめろ!」
逃げる振りなんかして……
ベリアルは恥ずかしがりやさんなんだね。
「んもう……ベリアルってば恥ずかしがって……かわいいんだから」
「はあ!? 心から嫌なんだ!」
「ぐふふ。本当は嬉しいくせに。スーハースーハー」
「うわあぁ! 吸うな! 変態め!」
「あぁ……」
バタバタして逃げちゃったよ。
もっと吸いたかったのに……
「……洞窟の外は不思議な事ばかりです」
ん?
お花ちゃんの口癖が出たけど、どの辺りが不思議だったのかな?
「何か不思議な事があったのかな?」
「なぜモフモフを吸いたいのですか?」
「ふふふ。よくぞ訊いてくれたね! モフモフは世界の宝なんだよ! 柔らかくてフワフワで吸うと幸せになれるんだよ! 濡れているとメイプルシロップみたいな甘い匂いがするの! はぁ……想像しただけで興奮してきた」
「……確かに濡れている彼は香ばしいですね」
「熊太郎も濡れるといい匂いが増すんだね! はぁ……モフモフは世界の宝だよ」
「ペルセポネ様? これが変態なのですか?」
「え? 変態……? あはは。皆はそう言うけど、好きな相手の匂いを吸うと幸せな気持ちになるんだよね。落ち着くのかな?」
「なるほど……わたしも熊太郎が抱きしめてくれるとすごく落ち着きます。熊太郎はいつも花の甘い香りがして気分が安らぐのです」
「お花ちゃんは熊太郎が大好きなんだね」
「はい。辛く長い時を共に乗り越えてきましたから」
「そうだね……あれ? 熊太郎は?」
さっきまで一緒に歩いてきたけど……
「いました。あれは……確かオークさんでしたか?」
パパと花を見ながら話しているね。
「ふふ。もしかしたら、お花ちゃんと熊太郎の島に植える花をもらう話をしているのかもね」
「そうかもしれませんね。ガイア様が畑をそのまま移動して持ってきてくださるようなのですが、これから暮らす島はとても広いですし。熊太郎は花が好きですからたくさん育てたいのかもしれませんね」
「もしかしたら……」
「え?」
「あ……うん。パパはママに花をプレゼントする為に育てているんだよ? 熊太郎もそうだったりしてね」
「……わたしの為に?」
「パパはママがダリアの花を見て綺麗だって言ったのを聞いてから、島中をダリアでいっぱいにしたんだよ」
「素敵ですね。この花がダリアですか? だからダリアの花がたくさんあるのですね」
「熊太郎は洞窟の外に出て花を育てていたの?」
「あぁ……ガイア様が隠し部屋の中に畑と太陽のような物を創ってくださいまして、そこで野菜や花を育てていました。恐ろしくて洞窟から出られませんでしたので……」
「そうだったんだね」
「キッチンやトイレなどもあって外に出なくても暮らせていたのです」
「食べ物とか野菜の種とかはどうしていたの?」
「ガイア様が定期的に持ってきてくださいました。そのたびに畑と太陽のような物に神力を足したり、聖女の状態を見ては悲しまれて……」
「そうだったんだね」
「早く聖女を埋葬してあげたいと涙を流しておられました」
「そう……おばあちゃんが……」
「あら? 見た事のない人間が……幸せの島の人間ですか?」
お花ちゃんの指差す方を見ると……
人間の姿のおばあちゃんと吉田のおじいちゃんがいるね。
バニラちゃんはいないみたいだ。
おばあちゃんは、バニラちゃんの事をおじいちゃんに話したのかな?
おじいちゃんはどう思ったんだろう。




