ずっと今のままなんてないんだね~後編~
「お兄ちゃん……見つけたんだね。本当の幸せを……本当の居場所を」
お兄ちゃんが幸せの島から出る日が来る事は分かっていた。
でも……やっぱり悲しいよ。
「ずっと種族王の重圧に耐えて無理をしていたわたしを、ぺるみ様が救ってくださいました。いつか本当にやりたい事ができたら……居場所を見つけたら……その時まで幸せの島にいて欲しいと言われどれほど嬉しかったか」
「……雪あん姉と一緒に幸せに暮らす家が……お兄ちゃんの居場所が見つかったんだね。自分達でその居場所を作ったんだね」
「過去のわたしは自分を追い詰めていました。種族や傘下の者達を守らなければと……ですが、お雪さんと過ごす時間は……本当に温かく幸せで。これこそ、本来のわたしの姿なのです」
「……うん。お兄ちゃんは戦よりも物作りをしながら穏やかに過ごす方が似合っているよ」
「ありがとうございます。やっと、お雪さんとの適切な距離が分かり……これで安心して共に暮らせます。ぺるみ様……ただ、眠る場所が変わるだけで今までと何も変わりませんよ? 朝日と共に第三地区に来て夕陽が沈む頃に家に帰る……だから……そんな悲しいお顔を……しないでください」
「ごめんね……違うの……お兄ちゃんが雪あん姉と幸せに暮らせる事が嬉しくて……二人はわたしの大切な家族だから」
「ぺるみ様……不思議ですね。初めてお会いした時には敵だったのに……いつの間にかとても大切な存在になっていました」
「わたしもだよ? お兄ちゃんの事が大好きだよ?」
「……ぺるみ。オレからも大事な話があるんだ」
雪あん姉が真剣な顔をして話しかけてきたね。
「うん……? どうしたの?」
「……オレは……な。いつか……ウェアウルフ族になりてぇんだ」
「……え?」
どういう事?
「ウェアウルフ族にも……時々魂の無い赤ん坊が……卵が産まれてくるらしい」
「え?」
「オレは……その身体に……入りてぇんだ」
「……!」
「ぺるみが……その事で苦しむ姿をずっと見てきた。だから……言いにくくてな」
「雪あん姉……」
「オレは……群馬でも子がいなかった。でも……狼の兄ちゃんの子が欲しいんだ。今の創り物の身体じゃ子はできねぇからな。自分と……好きな奴の子を抱きてぇんだ」
「……うん。そうだね……」
「長い時を待つつもりだ。いつか……魂の無い赤ん坊が産まれるのを。ウェアウルフ族にも話してきたんだ。そうしたら……狼の兄ちゃんの子にしてもらえるならって言ってもらえてな」
「お兄ちゃんは皆に好かれる王様だったからね」
「ウェアウルフ族は一度に何人も子を産むらしいんだ。数年から数十年に一度魂の無い赤ん坊が産まれるらしい。その子を……死産の子を待つなんて酷い話だけど……でも……やっぱりオレは狼の兄ちゃんとの子が欲しい。死産の子の身体にオレの魂を入れて……いずれその身体が成長したら……兄ちゃんとの赤ん坊を産むつもりだ」
「……うん」
ダメだ。
上手く話せないよ……
「今……ガイアに話したんだ。ぺるみが散歩に行ってる間にな……ガイアがオレの記憶を残したままウェアウルフ族の身体に魂を入れてくれるらしい」
「記憶を残したまま……そっか。良かった……良かったよ……うぅ……」
涙が出てきちゃった。
雪あん姉のお兄ちゃんへの気持ちが伝わってきて……我慢ができない。
お兄ちゃんは子供が好きだから、雪あん姉はお兄ちゃんの赤ちゃんを産めない事に傷ついていたんだね。
それでこの方法を思いついたんだ。
辛かったね……
苦しかったね……
雪あん姉とお兄ちゃんも前に進み始めているんだね。




