新しく生まれる命と、捨てられた命
「え? じゃあ、おばあ様が子供の時に倒したクマポイは熊太郎だったの!?」
第三地区で髪を乾かしながら大声を出す。
じゃあ、おばあ様が話していた黄金の洞窟が聖女の眠っていた洞窟だったんだね。
そういえばアルストロメリア王国に近かったよ。
おばあ様は今はシャムロックの王太后だけど昔はアルストロメリア王国に住んでいたんだよね。
不思議な縁だね。
「あの時はいきなり現れた人間の子供に殴られて驚きました。わたしが洞窟の入り口付近にいた為に聖女の亡骸には気づかれずにすみました」
熊太郎が昔を思い出して震えているね。
「熊太郎は聖女の棺を守っていたの?」
「四大国の王以外が間違えて近づいた時には、熊の振りをして追い返していました」
「そっか。ありがとう。おかげで聖女を埋葬できるよ」
「そんな……わたしはただあの洞窟に隠れていただけです」
「今はもう悪い大天使も消滅したし、冥界もすごく素敵な場所になったんだよ?」
「先程のお話だとそうなったのはハデス様のおかげらしいですね」
さっきまで温泉に入りながら、今まであった事を全部話したんだよね。
「うん。ハデスとケルベロスが頑張ってくれたんだよ」
「わたし達がタルタロスから逃げて数千年が経ちました。洞窟の外は色々と変わったようです」
「そうみたいだね。温泉はどうだった?」
「はい。気持ち良かったです。これからは毎日入れるのですね」
「うん。好きな時間に入りに行って平気だよ。あ、あと今はいないけどすぐ近くの島に人魚達もいるんだよ?」
「人魚……先程のお話だと確か魔法石で攻撃をするのが好きだとか」
「うん。でも、第三地区の皆は魔法石でマッサージされて気持ちいいらしいの」
「第三地区の皆さんは、かなりたくましいようですね。はは……」
熊太郎が控えめに笑っているね。
「あはは。そうなんだよ」
「あ!」
あれ?
今の声は……
卵の母親のお花ちゃん?
「お花ちゃん、どうかしたかな?」
「卵が……今……少し動いたような」
「ええ!? もしかして産まれてくるのかな!?」
早く赤ちゃんに会いたいよ。
「ふふ。そんなに慌てたらダメよ? 卵の中の赤ん坊は恥ずかしがりやさんのようだから……ただ、嬉しかったのかもしれないわね」
天族の姿のおばあちゃんが笑いながら歩いて来たね。
「ガイア様? 嬉しかったとは?」
お花ちゃんが卵を抱きしめながら尋ねている。
「お花ちゃんと熊太郎が楽しそうに話しているのが聞こえてきて外が楽しい場所だと気づいたのかもしれないわ」
「……! ガイア様……ありがとうございます。本当に……ありがとうございます」
「まだ孵るのは先になりそうね。でも……そう遠くない未来に必ず会えるわ? だから、のんびり待ちましょう。熊太郎とお花ちゃんが毎日話しかけていれば赤ん坊も二人に会いたくて堪らなくなるはずよ? 二人が赤ん坊に会いたくて堪らないようにね」
「はい……ガイア様……あの時……タルタロスから救い出していただかなければ……わたし達はどうなっていた事か……本当に感謝しています」
「お花ちゃん……」
おばあちゃんが悲しそうに微笑んでいるね。
……バニラちゃん?
今は気持ちを聞かれないように集中しているから平気だよね?
さっきからバニラちゃんの様子がおかしいよ。
……そうじゃない。
ずっと前から違和感があった。
わたしの考えが合っていれば……
やっぱりベリアルが良い魂で、バニラちゃんが悪い魂だった……?
バニラちゃん……
バニラちゃんはもしかしたら……
自分を捨てた父親であるウラノスおじい様と、母親であるガイアに復讐をしようとしているの?




