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ガイアが語る過去(6)

今回は月海の祖母でありペルセポネの曾祖母であるガイアが主役です。

「幸せ……とは何ですか?」


「ん? そんなのは皆違うだろうな。オレは狼の兄ちゃんといる時が一番幸せだしな」


 お雪さんは幸せになれたのね。

 良かったわ。


「オレはご飯を作って皆に旨いって言われたら嬉しいなぁ」

「オレはあったかい布団に入った時が幸せだなぁ」

「オレは洗濯物のいい匂いを嗅いだら幸せだ」


 第三地区の皆の幸せはどれも素敵だわ。

 何気ない日常こそが本当の幸せなのよね。


「卵のお母さんの名前は?」


 ペルセポネが優しく微笑みながら話しかけているわね。


「わたし達には名前がないのです」


 卵の母親が悲しそうな表情をしている。


「そう……魔族はね? 名前は同じ種族だけの秘密なの。だからウェアウルフ族だったらウェアウルフって呼ぶし、魚族だったら魚族って呼ぶんだよ? そうじゃないといけないの。他種族に名前を呼ばれると従魔になっちゃうんだよ」


「従魔……?」


「うん。嫌な事を無理矢理やらされたり、絶対に主人には逆らえなくなるの」


「そんな……」


「でも、あなたは魔族じゃないから……今から素敵な名前を考えよう?」


「素敵な……名前? わたしみたいな化け物に名前なんて……」


「誰かに……そう言われたの?」


 ペルセポネが泣きそうな顔をしているわ。


「……両親にも……タルタロスでわたし達を苦しめた天族にも……ずっと化け物と……」


「……辛かったね」


 ペルセポネが卵を抱いている母親を抱きしめた……?


「あぁ……あの……わたしのような化け物に抱きつくなんて……もし、醜さがうつったら……」


「あなたは醜くなんてないよ? すごく優しい瞳をしているし……あれ? いい匂いがする。何の匂いかな?」


「わたしが……醜くない……? いい匂い……? あ……それは朝、彼からもらった花を服に飾っているから……?」


「うわあぁ! 素敵だね。わたしのパパも、毎日ママに花をプレゼントしているんだよ?」


「パパ……? ゼウス様……ですか?」


「あぁ、違うの。わたしは色々あって魔族に育てられたの。そのパパがママにプレゼントしているんだよ?」


「魔族に育てられた? それは……?」


「ふふ。話すと長くなるから……温泉に入りながら話そう?」


「おんせん……」


 ペルセポネが卵の母親と手を繋いで歩き始める。


「卵のお父さんも行こう? すごく気持ちよくて温かいお湯なの。身体の疲れが取れて幸せなんだ。三人が第三地区に来てから最初の幸せかな?」


「最初の幸せ……? 三人……?」


 卵の父親が震える声で呟いた……?


「うん。だって今日から卵ちゃんと第三地区で暮らすんでしょう? これからは毎日幸せな事がいっぱいあるよ?」


「幸せが毎日?」


「うん。幸せってね? 特別な事だけじゃないんだよ? 例えば……うーん。少し早起きしたら雪あんねぇが畑でみかんをくれたとか。第三地区の皆が今日も笑顔で嬉しいとか。弟のハーピーちゃんがかわいいとか。ベリアルが……ぐふふ。とかね?」


「おい! オレがぐふふって何だよ!?」


 あらあら。

 またベリアルとペルセポネの口喧嘩が始まったわね。

 毎日仲良しで嬉しいわ。


「ええ? だからぁ……ベリアルは今日も寝癖が揺れているなぁって」


「は? 寝癖が揺れるはずないだろ!?」


「……!? まさか知らなかったの!? 嬉しいとその寝癖はフリフリ動くんだよ?」


「は? お前……大丈夫か? そんな犬のしっぽみたいな事があるはずないだろ?」


「んもう! ベリアルってば。あとで鏡で見てみなよ? 超絶かわいいんだから……ぐふふ。ぐふふふ」


「……こいつは救いようがないな。ついに幻覚まで……」


 あらあら。

 ベリアルは無意識に寝癖を揺らしていたのね。

 ベリアル以外は皆知っているのに。


「ふふ。さあ、温泉に行きましょう? 今日から家族になる二人の名を考えないと」


 思わず笑顔になってしまったわ。

 ペルセポネは不思議な子ね。

 辛かった心が暖かな春の日のように穏やかになっていく。


「わたし達の名を……あの……卵の中の子の名は?」


 父親の方が悲しそうな表情をしているわね。


「ペルセポネは前の世界では月海と名づけられたの。名には意味が込められているのよ? 月海は『暗闇の海を照らす月のような子。暗く広い海でも迷わないように穏やかに行き先を照らしてくれる』という意味なの。名の通り人々の心を優しく照らす素敵な子に育ったわ。二人もこれから産まれる子の名を考えないとね。親としての一番初めの大仕事よ?」


「親として……ですが……この子はもう数千年も卵から孵りません」


「赤ん坊は卵の中で生きているわ。ただ、外の世界が怖いだけよ」


「ガイア様……」


「さぁ、温泉の島に着いたわ。かけ湯をして入りましょう」


 こうして、タルタロスで辛い思いをしてきた二人は第三地区で暮らす事になった。

 

 父親は熊太郎。

 母親はお花ちゃん。


 ふふ。

 ペルセポネらしい名になったわね。

 熊太郎は熊みたいに強そうだからで、お花ちゃんは花がよく似合っているから……か。

 これからはこの第三地区で穏やかに……賑やかに楽しく過ごせるはずよ。

 誰からも虐げられる事なく、心から笑える日が必ずくるわ。


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