ガイアが語る過去(5)
今回は月海の祖母でありペルセポネの曾祖母であるガイアが主役です。
「あなたは? わたしとよく似ていますね……」
卵の母親が魚族長に尋ねている。
「わたしは魔族です。この辺りの魚族の長です」
「魔族……?」
「この世界にはわたしのような容姿や……ほら、こちらのウェアウルフのようなモフモフな種族もいます。あなた達を気持ち悪いなどと考える者はいませんよ」
「……! 本当に?」
「はい。……今まで大変でしたね。わたしも魚族と暮らす魚人族だったのでその苦労は分かります」
「あなたも……差別され迫害されてきたのですか?」
「わたしには守ってくれた母がいましたから……それなのに……その母を酷く傷つけてしまって。ですが今は謝罪して時々会いに行っています」
「守ってくれた母……?」
「はい。血の繋がりはありません。わたしの両親は……たぶんわたしを捨てたのです。母はそんなわたしを愛してくれました」
「……なぜ捨てられたのですか? あ……ごめんなさい……」
「いえ。気にしないでください。わたしにも捨てられた理由は分かりません。顔さえ知りませんから。ですが、たぶん……ですが……魚人族なのに陸に上がれないわたしを嫌ったのでしょう。今はハデス様のおかげで陸に上がれるようになりましたが、最近まではずっと海から出られなかったのです」
「そうだったのですか……辛い事を訊いてしまってごめんなさい。わたしは天族なのにこの醜い容姿で産まれてきた為に両親から見捨てられて……タルタロスでは酷い扱いを受けてきました。あなたは素敵なお母様がいて幸せに暮らしてきたのですね。わたしも……タルタロスで出会った彼と……今では幸せに暮らしています。虐待をされないだけで……それだけでわたし達は幸せなのです」
卵の母親が身体を振るわせながら話している。
「なぁ……卵の母ちゃん……それは本当の幸せじゃねぇぞ?」
お雪さんが悲しそうな表情で話しかけたわね。
「本当の幸せではない……?」
「ああ。オレは生まれ変わったんだ。このたくましい肉体にな。でも、その前はひ弱で小さくて皆に守られていてな。誰かに幸せにしてもらうのを待ってたんだ。だから、オレはこの世界に来て決心したんだ。今度はオレが皆を守るんだってな」
「皆を……守る?」
「でも、そんなのは思い違いだった。結局オレは誰の事も守れてなかったんだ。オレは……もう必要ないんだと辛くなってな。そんな時……狼の兄ちゃんに出会ったんだ。狼の兄ちゃんはオレの疲れた心に寄り添って二人だけの島を開拓しようと言ってくれたんだ」
「二人だけの島?」
「そうだ。オレと兄ちゃんが、ただ幸せに暮らす島。誰かを守らなきゃいけねぇとか、そんな事のねぇ島だ。王様でもなく集落の守り神でもねぇ……ただ一人の男と女として幸せに暮らせる島だ」
イナンナの子孫のお雪さんは異世界の群馬の集落で白髪に金の瞳で産まれてきた。
あの時代にその容姿の人間を、集落の人達は見た事がなかったはずだから……集落の守り神として大変な思いをしてきたのね。




