ガイアが語る過去(3)
今回は月海の祖母でありペルセポネの曾祖母であるガイアが主役です。
次の話に進む前にひとつ話さなければいけない事があるわ。
月と晴太郎が幼い頃……
大天使が月を亡き者にしようと魔素で攻撃したの。
倒れた月を見た晴太郎は大人を呼びに走った。
それを良く思わなかった大天使が晴太郎を転落死させたの。
その時、ウラノスが晴太郎の身体に憑依した。
そして……わたくしは魔素で亡くなった月の身体に憑依して『お月ちゃん』として群馬の集落に住み続けた。
それから、わたくしはゼウスが用意した天族の脱け殻の身体と結婚して星治を授かった。
毎日が幸せだったわ。
父親のいない星治の子育てを晴太郎になったウラノスが手伝ってくれてね……
天界にいた頃には考えられない事だったわ。
そして、月海が産まれたの。
月海にその子の魂が入れ込まれた事は分かっていたわ。
だから……
わたくしは……
やっとその子を育てる事ができた。
愛しい子……
わたくしの愛しい子……
けれど、星治は魔王としてこの世界に連れ去られて……
わたくしは大天使から魔素で攻撃されて命を落とした。
冷たい雪の中に倒れたわたくしを、幼い月海が助けようと泣きながら人を呼びに走ったわ。
それからわたくしはこの世界の第三地区に魂だけが呼び寄せられた。
ゼウスの力でね……
ここまでは皆さんも知っている話だったかもしれないわね。
ここからは、別の話をするわ。
冥界での実験の話は知っているでしょう?
あの実験は酷いものだったわ。
天族には時々、魔族のような姿で産まれてくる赤ん坊がいたの。
その容姿の男女に無理矢理、子を授からせようとする実験……
記録には残っていないけれど実験は成功していたの。
ここにいる二人がその被害者よ。
わたくしは天界での戦の混乱に紛れてタルタロスに潜り込んだの。
けれど、コットス達は参戦する為に天界に向かっていて会う事ができなかった。
その時にこの二人に出会ったのよ。
卵を抱えながら『この子が産まれてきたらどれ程辛い目に遭うのか』と泣いている二人を、この世界に連れてきて洞窟に隠したの。
その洞窟は……
聖女の眠っていたあの洞窟よ。
奥に隠し部屋を作って二人を住まわせたの。
あの洞窟は聖女の亡骸を守る為にと人が寄り付かない場所にあったのよ。
人間が来るのは年に一度だけ。
まぁ、ずるをしていた人間もいたから……
実際は年に五回ほどだったかしら。
それからの長い年月を二人は穏やかに暮らしてきたわ。
そのうちに愛し合うようになってね。
けれど、卵から子が孵る事はなかったの。
その卵が今、母親が抱いている卵よ。
もう数千年間卵に入り続けているの。
魂が無いわけではないのよ?
ただ……
産まれてきたくないのかもしれないわね。
タルタロスで卵の中から聞いたのは恐ろしい言葉や音だったはずよ?
あの頃のタルタロスは地獄のような場所だったから……
今はもう悪い大天使は消滅させられたの。
だから……
わたくしは卵の中の赤ん坊に教えてあげたいの。
もう卵から出てきても大丈夫よ……と。




