疲れた心と寄り添う心(1)
天界に行く時間になり、お父様の執務室に着くと誰かの泣き声が聞こえてくる。
「うぅ……やめたいよぉ。神様なんてやめたいよぉ」
「ゼウス? 頑張ったらご褒美をあげるから、もう少し頑張りましょう?」
「ご褒美!? やったぁ! 頑張るよっ! デメテルちゃん大好きっ! チュッ」
「もう、ゼウスの甘えん坊さん。チュッ」
……父親と母親のこんな姿は見ていられないね。
気まず過ぎるよ。
わたしがいる事にも気づいていないみたいだし、ハデスはウリエルの私室に行ってここにはいないし。
こっそり抜け出して仲良しタイムが終わるのを待とうかな。
ウリエルの私室に行ったらハデスも気まずいだろうね。
またわたしのフィギュアをひっくり返してパンツを見ていたら……
うん。
絶対ウリエルの私室には行かないでおこう。
どこに行こうかな?
天界か……
一人で出歩くなんて数千年前にも無かったよね。
とりあえず、庭園にでも行こうかな?
考えてみれば、家族とずっと一緒にいたから天界に帰ってきても訪ねてきてくれる人もいないんだ。
友達もイナンナだけだったし。
イナンナ……
わたしのせいで……
わたしがあの時、ファルズフに殺されてお父様が神様を辞めたから……
だから、ブラックドラゴンのおじいちゃんが神様になって引き離されたんだ。
「はぁ……」
全部わたしが悪いんだよね。
もし、あのままわたしが生きていて、イナンナも天界にいたら……
そうしたらブラックドラゴンのおじいちゃんも天界にいたのかな?
……胸が痛いよ。
苦しい……
最後にベリアルを撫でてからまだ一時間経っていないはずなのに……
「……っ」
息ができない……
目の前が……真っ暗……
「ぺるぺる!」
……吉田の……おじいちゃんの……声?
……あれ?
ここは?
どこ?
ベットの上?
「ぺるぺる? 大丈夫か?」
「……うん。吉田のおじいちゃん? わたし……」
身体を起こそうとするけど頭が、ぼーっとして起き上がれない。
「ぺるぺるは庭園で倒れたんだ。大丈夫か? まだ苦しいか?」
「……いきなり胸が苦しくなって、目の前が……真っ暗になったの」
どうしよう。
涙が止まらない。
心配かけたくないのに。
「まだベリアルを吸って一時間経ってねぇなぁ。……何かあったか?」
「イナンナが酷い目に遭ったのは……わたしのせいなの……」
「……そうだなぁ。あの時、天ちゃんが神を辞めなけりゃまだ天界にいたかもなぁ。ブラックドラゴンと幸せに……そう思って苦しくなったのか?」
「……うん。わたしのせいで……皆を……巻き込んじゃったの」
涙が止まらなくて上手く話せない……
「ぺるぺる……あの時は全部が悪い方に進んじまったんだ。それで……今ようやく、こんがらがった糸がほどけ始めたんだ。あまりにも長い時間がかかったなぁ。あのままイナンナとブラックドラゴンが天界にいても幸せにはなれなかっただろう。悪い大天使達に引き離されていたはずだぞ?」
「でも……わたしの……せいで……うぅっ……」
「ぺるぺるは心が優し過ぎるんだなぁ。何度も辛い思いをしたからなぁ、心が疲れちまったんだ」