内緒話~前編~
「ぺるみは朝飯は食べたんか? 焼きまんじゅうがあるぞ?」
おばあちゃんが広場のテーブルに焼きたての焼きまんじゅうを持ってきてくれる。
「うわあぁ! おいしそう! いただきます」
ひとくち食べると……
フカフカの白いパンに甘じょっぱい味噌のたれが塗られて、それが香ばしく焼かれて……
「おいしい! 群馬県民で良かった! おばあちゃんの焼きまんじゅうは世界一おいしいよ!」
口の周りの汚れを気にしている暇がないくらいおいしいよ。
「本当、ばあちゃんの焼きまんじゅうはウマウマだ! モグモグ」
……!?
ベリアルがいつの間にか、わたしの目の前で焼きまんじゅうを食べている!?
嘘でしょ?
カスタードクリームみたいな黄色の少し大きめのヒヨコちゃんが……
おいしそうに焼きまんじゅうを食べている!?
ぐはっ!
このかわいいヒヨコちゃんは一体なんなの!?
世界を滅ぼしかねないかわいさだよ!?
これは罪だよ。
いや、違うね、このかわいさに吸い付かないのが……
罪だ!
「ふふふ……この世界には……モフモフ神がいて……わたしに愛でさせる為に……」
「お前……何言ってるんだ? 顔がヤバイぞ? 気持ち悪っ!」
くっ!
気づいて逃げたか!
吸おうとしたのに、残念っ!
「ぺるみ様……相変わらずモフモフ好きなのですね」
え?
この声は……
グリフォン王だ!
でも、今は息子さんに王位を譲ったから……
「グリフォンのお兄ちゃん……久しぶりだね。昨日は挨拶できなくてごめんね」
「お兄ちゃん……!? そう呼んでいただけるとは……嬉しいです」
「世界一周の旅の途中に帰って来させちゃってごめんね」
「いえ、そんな。聖女様の最期に立ち合う事ができて良かったです」
「……うん。今からルゥに会いに行くけど、一緒に行く?」
「はい。ぜひ。不思議です。見た目が変わっても聖女様なのですね。今はぺるみ様……ですね」
口の周りを、おばあちゃんの持ってきてくれたおしぼりで拭くとグリフォンのお兄ちゃんと二人で歩き始める。
「世界の旅はどう? パートナーさんもおじちゃん達も元気?」
「はい。今はグリフォン王国にいます。聖……ぺるみ様がわたしに抱きつけないと申し訳ないからと……」
「パートナーさんに申し訳なかったね。わたしが更に変態になっちゃったから、気を遣わせちゃったね」
「そんな事は……我ら魔族は皆、ぺるみ様に抱きしめて撫でて欲しくて仕方ないのです」
「……不思議だね。天族と魔族は仲が悪いのに。わたしも皆が大好きなの」
「まるで……」
「……? まるで?」
「はい。全ての命あるものが争いを忘れ穏やかに過ごせるようにと、ぺるみ様が幸せの島に導かれたようだ……と」
「導かれた……?」
「ハデス様とぺるみ様が長い時を経て、再び出逢う為だけではなく……この世界が……上手く言えませんね」
ルゥの身体が眠っている家に着くと深呼吸をする。
久しぶりだけどできるかな?
今はペルセポネの身体だからルゥが契約していた精霊の力は使えないからね。
神力で外に音が漏れないように結界を張ろう。
「……うん。お兄ちゃんの言う通りだよ。わたしも……そんな感じがしていたよ? ……変な事を訊いちゃうけど、皆には内緒にしてくれる?」
「え? あ……結界? ぺるみ様?」
「あのね? 吉田のおじいちゃんの事を訊きたいの」
ずっと気になっていた事があったんだ。