神様代理ついに始まる(4)
「さすがはペルセポネだ。天才だな」
ハデスが自慢げにわたしを褒めたね。
掛け算ができたくらいでこんなに褒められると恥ずかしくなるんだけど……
「ありがとうございます! ペルセポネ様のおかげで今宵はぐっすり眠れそうです! あぁ……良かった。あ、そういえば……ヘスティア様はこちらに?」
「え? あぁ……今はいないよ?」
「そうですか。先程ヘスティア様の宮殿の前を通りかかったら荷を運び出そうとしていたので、お引っ越しでもされるのかと」
「え? 引っ越し?」
群馬の温泉に行っている最中に?
「では、失礼します。あぁ……ペルセポネ様は神の言う通りの天才様だ」
数学者の天族が、ご機嫌で帰って行ったよ。
天才……
掛け算ができたくらいで天才か……
騙しているみたいで申し訳ないね。
「……ハデス? 今のヘスティアの宮殿の話って……泥棒じゃないかな?」
「……だろうな。ヘスティアの宮殿は家具も食器も全てが最上級だからな。留守の間に盗み出そうとしているのだろう。命知らずな……」
「え? 命知らず? 何が?」
「ヘスティアの神力の縄を見た事があるだろう。あれはヘスティアにしか解けないのだ。いや、ヨシダのおじいさんは解いていたか」
「あぁ……だからお父様もポセイドンも縛られて火干しされても逃げられないんだね」
「……あれは本人がそこにいない時にも発動される」
「え? 発動?」
「ヘスティアの宮殿の門の外に、塵ひとつでも持ち出そうとすればその犯人は神力の縄に縛りつけられるのだ」
「……怖」
「ヘスティアは普段は笑顔で穏やかだが……怒らせると恐ろしいからな」
「ハデスにも怖い相手がいるんだね」
「……そうだな」
「あ、そういえばお父様がヘスティアのドレスを勝手に着て破った事がばれて第三地区に逃げてきたよね? あの時はどうやって神力の縄から逃げたのかな?」
「……ドレスが酷く破れていなかったか?」
「え? あ、うん。すごく破れていたよ?」
「神力の縄から逃れようとして破ったのだろうな」
「……ヘスティアに火干しされる事が分かっていてもお父様はあのドレスを着たかったんだね」
「……その時さえ良ければそれで良い奴だからな」
「……そうだね。お父様はそういう人だよね」
「さて、ヘスティアの宮殿でも見てくるか」
「あ、わたしも行くよ」
「……いや、見ない方が良いだろう」
「え? そうなの?」
そんなに残酷なのかな?
まあヘスティアならそのくらいはするよね。
「ヘスティアが帰るまでは縄を解けないからな。見てくる事しかできないが、様子だけでも見てこよう。ペルセポネは執務室から出ずに待っているのだぞ?」
「あぁ……うん」
犯人は残酷な感じに縛られたあげくハデスに罵られるのか……
天族はハデスを恐れているからね。
泥棒しようとした事を心から後悔するだろうね。