神様代理ついに始まる(3)
「……うーん。数学か……どれ? どの辺が分からないの?」
小学生レベルだったらなんとかなるかな?
「ええ!? 教えていただけるのですか!?」
そんなキラキラの瞳で見つめられたら断れないよ。
「うーん……わたしに分かる範囲なら。お父様はいつも忙しそうだから、わたしも少しは役に立たないとね」
「ありがとうございますっ! あの! まず、どうして『いちかけるいち』は『いち』なのですか? なぜ『いちかけるゼロはゼロ』になるのですか?」
「え? それは……そんな事は考えた事も無かったよ。えっと……なぜって言われても……当たり前だからとしか……」
「なんと! 当たり前!?」
「え? あ、うん。異世界では十歳くらいから掛け算を普通に使えるようになるんだよ」
「なんと! そんな! 異世界の子供は天才なのですか!?」
「……違うよ。学校……アカデミーって言えば分かるかな? 毎日毎日暗唱させられてテストもさせられて、全部覚えるまで強制的に頭に詰め込まされるんだよ」
「……強制的に!? ぜひその方法をわたしに!」
「……え? ただひたすら覚えていたから、方法も何も無いけど……うーん」
「そんなぁ!」
「うーん……ちなみに何の段まで覚えたのかな?」
「あ、はい。一応暗唱まではできているのですが……なぜそうなるのかが分からなくて」
「……天才だね。逆にすごいよ」
「お願いです! ペルセポネ様! わたしに掛け算がなぜああなるのかを教えてください!」
……そんな事を言われても。
ん?
ハデスがわたしを自慢の妻を見る瞳で見つめているね。
そうだ……
ハデスはわたしを天才だと思い込んでいるんだよ。
勘違いなのに!
「うぅ……そうだね。じゃあ……ここにお皿に乗ったクッキーがあるよね? で、あとひとつお皿を出して……はい、クッキーが三枚乗ったお皿が二つあるよね?」
「え? あ、はい。確かにありますが……」
「ひとつのお皿にはクッキーが三枚乗っていて、それが二つある。これが掛け算の『さんかけるに』なんだよ?」
「……? クッキーが三枚乗ったお皿が二つ……?」
「そうだよ? そうすると、お皿の上のクッキーは全部でいくつかな?」
「えっと……いち……に……さん……全部で六枚です!」
「そうそう。ここで掛け算の出番だよ。一枚のお皿に乗ったクッキーは三枚。それが二つあるよね? これが『さんかけるに』なんだよ? こうするとクッキーの数をひとつずつ数えなくても済むでしょう?」
「……頭が混乱しています。えっと……?」
「ふふ。ゆっくり理解すればいいんだよ? 異世界では絵を描いて勉強したりもして……かごにリンゴが三個あります。そのかごが五個あると全部でリンゴはいくつになりますか? とかね」
「……その問題だと……さんかけるご……答えは十五……ですか?」
「すごいね! 大正解だよ!」
「おお……そういう事だったのか。では……ゼロをかけるとゼロになるのはお皿の上に何も無い……という事か。なるほど……」
さすが数学者だね。
すぐに理解しちゃったよ。
……これ以上難しい事を訊かれたら答えられそうにないね。
割り算の存在は黙っていよう。