神様代理ついに始まる(2)
「親と一緒にどこかで幸せに暮らしていればいいけど……」
実験で無理矢理妊娠させられて皆から忘れ去られるなんて……
でも、本人達はその方が幸せなのかも……
「……そうだな。あの戦の頃はケルベロスも天界に行ったりして門番が常にはいなかったのだ。その容姿では天界には逃げられないだろうから……『人間と魔族の世界』に逃げたかもしれないな」
その容姿?
じゃあ、闇に近い力だけじゃなくて魔族みたいな容姿だったんだね。
ハデスの言う通り『人間と魔族の世界』に逃げているのかな?
「冥界の門の外にあるあの穴を使ったのかな? 落ちたら『人間と魔族の世界』に着くんだよね?」
「そうだ。今は限られた者しか出入りできなくなっているが、その頃は誰でも使えていたからな。……生きて冥界から出られていたらいいのだが」
「……生きていて欲しいよ。家族で幸せに暮らしていて欲しいよ」
「もう数千年経っているからな。無事に逃げたとしても生きているかどうか……」
「……うん。そうだね。はぁ……命を実験で産み出させるなんて……心が痛いよ」
「愚かな話だ。絶対にあってはならない事だ。辛い話を聞かせてすまないが……ペルセポネには知っておいて欲しかったのだ」
「……吉田のおじいちゃんはその親子がどうなったかは知らないのかな?」
「ああ。もうその頃は『人間と魔族の世界』に来ていただろうからな」
「そっか……」
「もし、生きていて辛い思いをしているのなら……助けてやりたいが」
「うん……ゲイザー族に訊いてみようかな。昔からずっと『人間と魔族の世界』にいるらしいし」
「そうだな。確かウェアウルフ族にも長く生きる者がいたな。ドラゴンも長く生きてはいるが、よそ者に興味が無さそうだからな」
「そうだね。魔族の皆に訊いてみるよ。もしかしたら、魔族と一緒に幸せに暮らしているかもしれないよね」
「……そう願いたいが。愚かな天族の為に辛い思いをしているのなら救い出さなければな」
「ハデス……ありがとう。いつもわたしの気持ちに寄り添ってくれて本当にありがとう。すごく心強いし……心が温かくなるよ」
「そうか……わたしもそうだ。ペルセポネが隣にいるだけで幸せだ」
「えへへ。嬉しいよ」
「わたしもだ……」
ハデスの顔が近づいてくる。
少しお酒の匂いがするハデスは瞳が潤んでいるね。
……?
あれ?
執務室の扉の隙間から誰か見ている……?
「……誰?」
天族の男性だね?
初めて見る顔だよ。
「……覗き見か? 悪趣味だな」
ハデスが怖い顔で怒っているね。
男性が震え上がっているよ。
「も……申し訳ございません。あの……神からペルセポネ様が異世界でそれは優秀だったと聞かされまして」
……お父様はそんな自慢話をしていたんだね。
困った神様だよ。
「それで? あなたは?」
まあ、執務室に来られるくらいだからかなり偉い天族なんだろうけどね。
「わたしは……数学者といいますか。自称で恥ずかしいのですが……その……『人間と魔族の世界』に行った時にこの書物を……」
「『人間と魔族の世界』? 確か天族は時々遊びに行く事もあるって聞いたけど」
「はい。『立派な大人の為の数学、かけ算を覚えたら君も天才』という書物をご存知ですか?」
「え?」
そういえばジャック先生のクラスの女の子がそんな名前の本を持っていたような。
「これの分からないところを教えていただきたくて」
「……え? わたしに?」
「はい。神に何度も教えて欲しいと頼んだのですが山積みの書類があるから無理だと断られまして……」
確かにいつも山積みの書類に囲まれてはいるよね。
でも確か、かわいい女の子じゃないから面倒だって言っていたような?