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魔術科の広場で(8)

「領民を幸せにするのは領主の仕事だよ? もちろん個々の努力も必要だけどね。でも、個人で幸せになるには限界があるでしょ? ある程度の土台は領主が作るべきだと思うんだよ」


「それは……そうですけど……領主様は忙しいからオレ達平民の事までは……」


 あぁ……

 ごめんね。

 ジャックを責めているわけじゃないんだよ。

 でも、きちんと話さないと。


「それでジャックが無理をしているの?」


「え?」


「領主の代わりに?」


「……そんな風に考えた事が無かった。でも……オレは地元の皆の希望だから」


「そう言われて最初は嬉しかったんじゃないかな? 自分は皆の希望なんだって。でも初めに検査された違う属性の魔力が使えなくて、だんだん不安になって、最近水属性だって分かって……今度こそ皆の為に頑張るんだって無理をしている……違うかな?」


「それは……」


「ジャック……わたしにもその気持ちが良く分かるよ? わたしも国に伝わる『水神様』と話ができる人を捜しにアカデミーに来たから」


 マリーちゃんが心配そうにジャックに話しかけているね。


「マリーちゃん……そうだったね。確か殿下が解決してくれたんだよね」


 ジャックの身体が小さく震えているね。

 追い込みすぎちゃったかな?

 でも、きちんとしてから前に進まないといけないんだよ。

 マリーちゃんもわたしの気持ちに気づいてくれているみたいだね。


「わたしも『自分が頑張らないと』ってかなり無理をしてたの。でも、国の王様に言われたの。『国の為に無理をするな。大切な家族なんだから』って」


「素敵な王様だね」


 ジャックが悲しそうに呟いたね。

 普通、平民は領主とさえ話ができないみたいだからね。


「たぶん……地元の人間が『ジャックは希望だから』って言ったのにはそんなに深い意味はないんじゃないかな? ただ『頑張れ』って言いたかったんじゃないかな?」


 そう思いたいよ。

 まだ子供にしか見えないジャックに全てを背負わせているなんて思いたくない。


「殿下?」


「心の底から『自分達の為に命を削って魔力を使えるようになれ』って思うような人間達なの?」


「命を……削る……?」


「そうなの? 『ジャックは魔力があるんだから死んでもいいから地元の皆の為にアカデミーで頑張って就職しろ』って言うような人間達なの?」


「それは……違います……でも……オレが頑張らないと……」


「……ジャックは本当に貴族の邸宅で働きたいの?」


「……え?」


「地元の人間の為にそうしないとって思ったんじゃない? それとも誰かにそう言われたの?」


「それは……だって……そうすればお金をいっぱいもらえるから……」


「ジャックは本当はどうしたいの?」


「オレ……? オレが……本当にやりたい事……?」


「うん。そうだよ? 本当にやりたい事は何?」


「そんな事……言っちゃダメだから……」


「……? どうして?」


「え?」


「どうして自分の夢を口に出したらダメなの?」


「……オレは……貴族の邸宅で……お金をいっぱい……」


「それは誰の夢なの?」


「……!」


「ジャックは魔力を持っているって分かった時にどう思ったの?」


「……それは……えっと……」


「言って? ジャックの抱え込んでいる全てを話して? ここには魔力を持っている人間しかいないから。皆、ジャックの気持ちが分かるんじゃないかな?」


「殿下……でも……笑われちゃうから……」


「誰かの夢を笑うような人間がここにいるの? それとも、わたしが笑うと思うの?」


「そんな事は思ってないです!」


「抱え込むのは良くないよ? わたしもそうだったの。ひとりで抱え込んで心が疲れちゃったの。でも、周りの皆がわたしの話を聞いてくれたの。そうしたら、すごく心が軽くなったんだよ?」


 こんな子供に他人の未来を背負わせたらダメだよ。

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