魔術科の広場で(5)
「そんなの気にするな。そうか、お前もジャックか」
ベリアルは面倒見がよくて優しくてフワフワでいつも甘い匂いがする超絶かわいいヒヨコちゃんだからそんなの気にしないよね。
ぐふふ。
「ありがとうございますっ! あの……ニホンの殿下は……大丈夫ですか?」
ん?
ジャックがわたしを見てドン引きしている……?
「え? うわ……またにやけきった顔になってる……最悪だな……こいつはただの変態だから気にするな。パンさえ与えておけば静かだからな」
また普通に悪口を言っているね。
でも、このパンは中に果物のジャムが入っていておいしいんだよ。
何のジャムかは分からないけど……
赤いからいちご?
でも、時期的に違うかな?
モグモグ
「あの……そうですか……えっと、今日はありがとうございます」
「困った時はお互い様だろ? 気にするな」
ベリアルは本当に良い子だよ。
「見ていてもらえませんか? 上手く魔術が使えなくて……」
「任せろ! さっそくやってみてくれ」
「はいっ!」
ジャックが詠唱を始めたね。
人間は詠唱をすると魔力が使えるって勘違いしているんだよね。
「モニョモニョモニョ……はあっ!」
……モニョモニョモニョ?
そういえば前にも詠唱をモニョモニョ言っていた人間がいたような……
「……」
ベリアルが無言の真顔でジャックを見つめているね。
ん?
身体が少し震えているような……
(あの……ぺるみ様、ベリアルは笑いをこらえているようですよ?)
え?
ゴンザレス?
(あまりに真剣なので笑ったら申し訳ないと思ったようで……)
なるほど。
笑いたいのを我慢するなんてベリアルは優しいよ。
人間はこれを正しい詠唱だと思っているからね。
生まれ持っての魔力なら詠唱は、いらないんだけど……
それは人間には秘密にしようって決めたんだよね。
「あの……どこが悪いんでしょうか。教科書通りにしているんですけど」
ジャックは真剣なんだね。
平民でも魔力があれば良い就職先があるらしいからね。
この世界は平民が虐げられるのが日常だから絶対に魔力を使いこなしたいんだろうね。
「えっ? どこが悪いか? そうだな……うーん……」
ベリアルが困っているみたいだね。
さてと、ちょうどパンも食べ終わったし……
「ねぇ、ジャック? ちょっといいかな?」
立ち上がってジャックの正面に立つとゆっくり話し始める。
怖がられないようにしないとね。
ただでさえ変態だと思われているからね。
「あ……はい。あ……口の周りが……」
ん?
口の周りが?
「ぷはっ! あはは! ぺるみは赤ちゃんだな! 口の周りにジャムがついてるぞ」
……ベリアルは我慢していたジャックへの笑いをわたしに向けたみたいだね。
ん?
あぁ……
少し離れた場所からハデスの怒っている気配を感じるよ。
ベリアルがピクッてしたね。
ハデスの怒りに気づいたみたいだ。
「うぅ……まずい……このままじゃ命がなくなる……」
ぐふふ。
小刻みに震えるヒヨコちゃんもかわいいよっ!
「……そうだね」
冷静にならないと……
また呆れられちゃうよ。
「そうだね。じゃないだろ。あいつにちゃんと言ってくれよ」
ハデスは本当にベリアルを殺るつもりかもしれないね。
でも……
ぐふふ。
困っているヒヨコちゃんもかわいいね。
わたしに頼ってくれるヒヨコちゃんも超絶かわいいっ!
でも、この興奮を隠す為には無言でいないと。




