魔術科の広場で(1)
さて、ジャック達はアカデミーの寮に帰ったし……
ここが魔術科の広場かな?
何もないんだね。
草も生えていない乾ききった砂……砂漠の砂みたいだ。
火の魔術を使っても火事にならないようにかな?
「あ! ペリドット様! 大丈夫なんですか?」
マリーちゃんが慌てて駆け寄ってきたね。
さっき倒れたから心配してくれているのかな?
「うん。大丈夫だよ? 寝不足かな。突然倒れてごめんね」
「そんな……謝らないでください。疲れているのにこんな事をお願いしてごめんなさい」
「二時間寝たらすっかり元気になったよ。今も市場から来たの」
「そうですか……あの……また今度魔術の使い方を教えてください。今日は、やめませんか?」
「あぁ……心配してくれるの? ありがとう。でも、わたしは全然平気だよ? あ、そうだ。これ、ヒヨコちゃんが皆に買ってくれたの。パンとクッキーとカルメヤキだよ?」
「え? ヒヨコ様が? ありがとうございます。うわぁ、いい匂いです」
「もう夕飯は食べた?」
「いえ。いつも八時くらいまで魔術の練習をしてから寮に帰って夕食にしているんです」
「それじゃお腹が空いちゃうよ。一度休憩にしない? 皆の話も聞きたいし」
「助かります。実はお腹がペコペコなんです。えへへ」
「あはは。魔術を使う時には集中力が大切だからね。空腹だと集中できないかもね」
「じゃあ皆を呼んできます。今日はわたしとジャックと、あと一人残っているんです。他にも平民の学生はいるんですけど仕事に行っていて」
「仕事?」
「はい。平民は授業料と寮は無料なんですけど、家に仕送りしたり、私物を買うお金が必要で」
「アカデミーの講義が終わった後に働いているの?」
「はい。市場とか、貴族の邸宅の下働きとかをしているみたいです」
「そうなんだね。ちゃんと眠れているのかな?」
「リコリス王国の陛下が、学生を夜の八時過ぎまで働かせてはいけないと決めてくれて。だから、八時に皆が帰ってきたら一緒に夕食にしているんです」
「そうだったんだね。じゃあ、皆が来たら疲労回復の力を使うね。かなり疲れているはずだから」
「ありがとうございます。疲労回復の力……すごいですね」
「いや……無限に働かせるみたいな力だからね。よく考えると怖いよね」
「……! 確かに! ……あはは!」
「マリーちゃん……これは笑うところなのかな……」
「だって……あはは! ペリドット様はやっぱり優しいですね。他の貴族なら喜んで平民を働かせるはずですよ?」
「大切な『人』に疲労回復の力を使った時に思ったの。これって良くないなって」
冥界のケルベロスには感謝されたけど、疲れ果てている人を回復させてまた働かせるのは心が痛むからね。
「マリー、焼きたてのパンが冷たくなっちゃうぞ?」
ベリアルが、少し離れた所にいるジャックの膝に抱っこされながら呼んでいるね。
「はい! 今行きます! ペリドット様……ヒヨコ様はすごくかわいいですね。ぐふふ」
……!?
マリーちゃんまで『ぐふふ』って言い始めているよ。
皆が変態になっていくね……