おばあちゃんの秘密(6)
「話したい事はだいたい話せたかしら……あぁ、もうひとつあったわね。ペルセポネ……冥界では子は授かれないの。あの地は死者の国……新たな命は授かれないのよ」
おばあちゃんが、わたしの髪を撫でる手が優しいね。
穏やかな気持ちになれるよ。
「うん。そうみたいだね」
「もうひとつ……ペルセポネとハデスちゃんの子は無事に産まれてくるわ。カーバンクルの魔法石のように粉々にはならないから安心して?」
「おばあちゃん……本当に? わたしとハデスの赤ちゃんは元気に産まれてこられるの?」
「もちろんよ。『闇の力』と『闇に近い力』を持つ両親から産まれるからと考えて心配になったのね。でも、ペルセポネは遥か昔には闇の力を使っていたけれど、今は神力を使っているでしょう? ハデスちゃんも闇に近い力ではあるけれど完全なる闇の力ではないの。星治が使っている古代の闇の力とは明らかに違うでしょう?」
「うん。前にお父さんが使っていた力はもっと怖い感じがしたよ? あの力は遥か昔のベリアルが使っていた力なんだよね?」
「ハデスちゃんの使う力は優しい力よ? だから大丈夫……安心して子を授かりなさい」
という事は……遥か昔のベリアルの闇の力は優しくない力……?
でもベリアルも今は神力を使っているよね?
つまり、わたしとベリアルは古代の闇の力は使えない。
でも、魔族はわたしを慕ってくれる……
それはこの世界の理だから?
魔族はベリアルの事もかわいがってくれているよね。
それも理だから?
うーん……
わたしとベリアルは別の生き物になっていて闇の力は使えない。
だからわたしはベリアルに吸収されないしハデスの赤ちゃんも授かれる?
「ペルセポネはもう知っているわね。身体と魂が合わない赤ん坊は死産になるの。遥か昔のペルセポネにも群馬の月海にもルゥにも魂が無かった。つまり……身体と魂が合わなかったのよ」
「……じゃあ……魔法石みたいに粉々にはならないけど、身体に合う魂じゃなかったら死産になるんだね」
「そうね……」
「魂はどこから来るのかな?」
「……ペルセポネ……それは……深く考えてはいけないわ? 全てを知るにはペルセポネは優しすぎる……だから……これ以上考えてはダメよ?」
「考えたらダメ……おばあちゃんがそう言うなら……わたしは知らない方がいい事なんだろうね」
「ペルセポネ……教えられなくてごめんなさい」
「そんな……謝らないで。今までの心配事がほとんど解決したよ。おばあちゃん……教えてくれてありがとう」
「はぁ……母親と父親の違い……かしらね……」
「おばあちゃん?」
「ウラノスは男目線でペルセポネ達に接しているのよ。わたくしは……母親として、祖母としてペルセポネを愛しているの。その違いで見える物も見えなくなっているのね」
「見える物が見えなくなっている?」
「立場によって見えなくなる物、よく見える物があるのよ」
「立場……? そうだね。わたしもこの世界に来てから会った事もない人間が嫌いだったけど、今は大好きになったの。思い込みもあるのかもしれないね。一度そうだと思うとその考えは、なかなか変えられないから」
「そうね。偉い立場にある者は特にそうよ。今ある考えが間違えていたとしてもそれを認めるには……プライドが許さないのかしらね」
「でも……吉田のおじいちゃんは変わったんだね」
「ペルセポネ……ウラノスは傷ついたわ。過去の自分の行いに酷く傷ついたの。でも……それ以上に、捨てられた子達は……傷ついているの」
「……うん。そうだね……」
「今になって後悔しても、過去を変えられるわけではないわ……」
「……でも……わたしは吉田のおじいちゃんを憎んではいないよ? おじいちゃんはずっとわたしの側にいてくれたから。ずっと愛してくれたから」
「……ペルセポネ……あなたは本当に……」
おばあちゃんが優しく抱きしめてくれたね。