おばあちゃんの秘密(5)
「おばあちゃん……皆息をしていないけど大丈夫かな?」
五分は経ったよね?
「大丈夫よ。問題ないわ。ペルセポネ……本当の『お月ちゃん』は……晴太郎と共に……大天使に命を奪われていたの。まだ四歳だった晴太郎を巻き込んでしまって……申し訳なかったわ」
「……大天使に? 何があったの?」
「大天使がイナンナの子孫を消そうとしていたのは知っているわね? そしてわたくしは大天使の魔素攻撃に耐えられず群馬で死亡した。月海を巻き込んだあの時よ。でも……本物の『お月ちゃん』は……本物の晴太郎が亡くなった時に命を奪われていたの。大天使に攻撃されてね……」
「そんな……」
「本物の『お月ちゃん』は幼い頃に魔素で攻撃されて亡くなったの。その時にわたくしが憑依したのよ。『お月ちゃん』は晴太郎と集落の温泉に忘れ物を取りに行ったの。そこで大天使に魔素で攻撃されて倒れたのよ。晴太郎は慌てて大人を呼びに行ったの。それをよく思わなかった大天使が晴太郎を転落死させて……その時ウラノスが晴太郎に憑依したのよ。ウラノスは晴太郎が魔素に倒れた『お月ちゃん』を助ける為に大人を呼びに行っていた事を知らなくてね……」
本物のおじいちゃんとおばあちゃんが幼い頃に大天使に殺害されていた……?
なんて酷い事を……
「『お月ちゃん』が亡くなった事は大天使以外は誰も知らなかったの。魔素で亡くなったはずの『お月ちゃん』が普通に動き出した時には、かなり驚いたでしょうね」
「おばあちゃんは……それからどうしたの?」
「大人を呼びに行った晴太郎を呼び止めようとしたの。自分は平気だからと言えばなんとかなると思ったのよ。でも……晴太郎はもう……そして、晴太郎の遺体の隣には姿を消している状態のウラノスが立っていたの」
「おじいちゃんは見えないはずの自分の姿がおばあちゃんに見えていたって言っていたね」
「あの時はわたくしの事がばれてしまったかと思ったけれど……ゼウスが集落で天族の身体を使って子を産ませていた事を知っていたウラノスはそのせいだと思ったようね」
『お月ちゃん』の身体に、妻であり母親でもあるガイアが憑依したとは思わなかったんだね。
「それからはわたくしは『お月ちゃん』、ウラノスは『晴太郎』として暮らしたのよ」
「……そうやって……群馬の集落で魂として漂っていたわたしを……わたしの魂を入れる身体を作り出そうとしていたお父様を見守っていたんだね」
「ペルセポネ……全ては……わたくしのせいよ。子を捨てるウラノスをとめられなかったから……ペルセポネが亡くならなければゼウスが神の座を降りる事もなくて、イナンナが群馬に追放される事もなかった。あぁ……それは違うわね……『あなた』がいなければペルセポネは死産だった。そうなれば……デメテルとゼウスは……辛い思いをしていたのね。子を失う辛さは誰よりも分かっているのに……」
「おばあさん……わたしが今こうしてペルセポネと過ごせているのはヨシダさんのお陰なの。だから……もう自分を責めるのは、やめましょう? 過去の全ての出来事が今の幸せを作った……そう思いましょう?」
お母様……
泣いているね。
わたしも涙が止まらないよ。
「デメテル……」
おばあちゃんも泣いている……
「おばあちゃん……お母様。わたし……ね? すごく幸せだよ? わたしが遥か昔の記憶を思い出せないのは『ベリアルが創り出したわたしの心』が思い出させたくないからだと思うの。きっと……今を幸せに生きて欲しいからなんだよ」
わたしはそう思うんだ。
ただベリアルを愛する為だけに創り出された人格かもしれないけど……
数千年経った今、またベリアルと巡り会って一緒に暮らしているなんて。
こんな事があるのかな?
もしかしたら、おばあちゃんがそうなるように手助けしてくれたの?
でも……それは口に出したらダメな事だね。
わたしの心の中だけの秘密……
おばあちゃんにもおじいちゃんにもゴンザレスにも聞こえないように、心の底にしまっておこう。