物語の主役だからって幸せとは限らないよね
「ベリアル……おじいちゃんを赦せないからって自分を責めているの? 赦せないのは悪い事じゃないよ。無理して赦した振りをするのは心に良くないし。自分の心は……自分でもよく分からないよね。口から出る言葉と心の声は違うものだし」
「……ぺるみは優しすぎるんだよ。普通は産まれたばかりで捨てられたら赦せないだろ」
わたしは優しくなんてないけど……
わたしよりベリアルの方が優しいよ?
「……吉田のおじいちゃんを恨む事なんてできないよ。綺麗事に聞こえるかもしれないけど……おじいちゃんはいつだってわたしを守ってくれたから」
「……ぺるみは物語の主役みたいだな」
「物語の主役?」
「優しくて皆に好かれる主役だ。オレには……なれそうにない」
「……それって……本当に幸せなのかな?」
「え? どういう意味だ? 主役だぞ? 幸せに決まってるだろ?」
「『転生したら皆から溺愛された』『転生したら誰よりも幸せになれた』『転生したら自分だけを溺愛する家族ができた』群馬でいろんな物語を読んだよ。その時は主役が羨ましかったの。何の苦労もしないでただ幸せになれる主役……何もしなくても無条件に愛される主役。でも……実際自分が憑依したら……わたしは、ただただ苦しかった」
「苦しかった?」
「うん。誰かの身体を奪って憑依して……わたしは泥棒で……見たくない現実を見ない振りをして……目を閉じて耳を塞いだの。そうやって『ルゥ』は幸せに暮らしていたの」
「……? ぺるみ?」
「群馬で同級生の男の子に言われたの。『物語の主役はかわいいから王子様に選ばれるんだ』って。『一目惚れされた普通の女の子が、お城に連れて行かれて王妃として幸せになれるはずがない』って。『王妃になるには幼い頃から教育を受ける必要があるのにいきなり連れてこられた普通の女の子が王妃になるなんて苦労するに決まってる』って」
「……ずいぶん現実的だな。物語だろ?」
「それを聞いた時はわたしも物語だからいいじゃないって思ったの。でも……その男の子は……養子でね。幼い頃に跡継ぎがいない家に親戚の家から養子に迎えられて……一生懸命勉強して……でも……養子なって十年経った頃……弟が産まれたの」
「……? 弟?」
「『オレはもう用済みになったんだ』って……悲しそうにしていたよ」
「そいつはどうなったんだ?」
「かなり荒れてね。でも……吉田のおじいちゃんがその子と話をしたの。毎日毎日……学校まで来てね。その子の帰り道はおじいちゃんの家とは反対方向なんだけど、おじいちゃんは毎日その子を家まで送ってね。最初はイヤそうだったその子もだんだんおじいちゃんと話すようになって……」
「……じいちゃんが」
「その子は違う集落の子でね? 進学先も違ったから中学を卒業してからは会わなかったけど……おじいちゃんの話だと今まで勉強した事が無駄にならないような仕事をするって言っていたみたいだよ?」
「……チュウガク? よく分からないけど……幸せなのか?」
「幸せかどうかは自分が決める事だからわたしには分からないけど……でも……今は過疎の村を住み良くする為に頑張っているってお父様が教えてくれたの。わたしが溺死してから『群馬の世界』は十年以上経っているからね」
同級生は三十代か……不思議だよ。