亡くなった後も覚えていてもらえると嬉しいよね~後編~
「それなのに……人はペリドット様を傷つける事ばかりします。だから……もう……ニホン以外の人には関わらないで欲しい。傷つかないで欲しい。でも……わたしはずっとペリドット様と一緒にいたくて……心がぐちゃぐちゃで……上手く話せなくてごめんなさい」
伯爵令嬢の真剣な心が伝わってくるよ。
「……ありがとう。わたし……後悔はしていないよ? 浄化をしながら、もう自分が生きていられない事は分かっていたから。それでも浄化をしたかったの。それはわたしが『全ての人間を守りたい立派な聖女』だからじゃなくて……わたしには命がけで守りたい存在がいたからなんだよ」
今、わたしが魔族と暮らしている事を人間は知らないから……
わたしは『ルゥ』の人間の家族の為、それから過去に亡くなった『魔素の発生元』である魔族の為に浄化をしたんだ。
「ペリドット様……ペリドット様は優しすぎます。これではいいように利用されていただけではありませんか。もっと人々は聖女様の偉大さを讃えるべきです。それなのに……」
「ありがとう。でも……これでいいの。もう聖女は現れない。これから先、魔素を祓える聖女はいない。聖女の存在は忘れられてもいいんじゃないかな? 忘れてしまえば『聖女がいれば魔素を祓ってくれたのに』って思う事もないでしょ?」
「聖女様を忘れる?」
「魔族が戦をして、またたくさんの魔族が亡くなって魔素が出たら、もうこの世界から魔素が祓われる事は無いの。聖女は毎回魔素を祓うと亡くなってきたらしいんだよ。それでも毎回聖女はこの世界の為に……死ぬって分かっていても自分の役割を果たしたの。過去の聖女の事は分からないけど……やっぱりその聖女達も大切な誰かを守る為に浄化をしたんじゃないかな?」
「大切な誰か?」
「うん。全ての人間の為にとか、ぼんやりした事じゃなくて……本当に守りたい『大切な誰か』の為に命を落としたんだと思うよ? 聖女っていっても意思がある人間だからね。命がけで知りもしない他人の為にそんな事はできないはずだよ。きっと自分の命よりも大切な存在がいたんだね」
「自分の命よりも大切な存在……? わたし……お父様に言われました。公女様との事で、わたしが巻き込まれなくて良かったと。それは家門の為ではなくわたしが大切な娘だからだ……と」
「そう……優しそうなお父さんだったよね」
「……はい。自慢の父です」
「家族って……良いよね。帰れる場所っていうか。家族の存在があるから頑張れるっていうか」
「はい。わたしもそう思います」
「『聖女ルゥ』を覚えていてくれてありがとう。でも……その事で傷つかないで欲しいの。わたしはわたしの大切な存在の為に浄化をしたの。だから……『大切な誰か』がわたしを覚えていればそれでいいの」
「『大切な誰か』?」
「うん。だから……わたしを覚えていてくれてありがとう」
「え? あの……もしかして……わたしも……『大切な誰か』に入りますか?」
「うん。もちろんだよ」
「……! わたしは聖女様を忘れません。絶対に。だって……大切な友人だから」
「友人……? あはは。わたしのアカデミーでの野望を知っているかな?」
「ふふ。はい。確か『友達百人』ですよね」
「うん! えへへ。お友達になってくれてありがとう」
「そんな! わたしの方こそ……」
あぁ……
わたしは人間を大好きになっていくよ。
もしも、遥か昔に天界でファルズフに命を奪われなかったら、ずっと天界にいて、この温かい気持ちを知る事は無かったんだろうな。