亡くなった後も覚えていてもらえると嬉しいよね~前編~
悲しい気持ちのままアカデミーの廊下を歩いていると、わたしを見ながらヒソヒソ話す声が聞こえてくる。
やっぱり怖いと思われているのかな?
同じクラスの人間達は怖くないって言ってくれるけど……
「あれが……」
「プリンって何かしら?」
「すごいの。さっき聞いたんだけど『プリンなんとか』を食べると恋が叶うらしいの」
……?
あれ?
わたしを怖がっている訳じゃなさそうだね。
プリンを食べると恋が叶う?
確かにそうだね。
わたしも思ったよ。
あぁ……
廊下にいる女の子達が話しかけて欲しそうにわたしを見ているね。
貴族は地位の低い相手からは話しかけられないんだっけ。
でも……
二十人くらいいるから、そんなにはプリンアラモードの余りは無いんだよね。
困ったな……
「あ! いた! ペリドット様、捜していたのですよ? ペリドット様のアイスクリームが溶けてきているのです! 調理実習室に急いでください」
伯爵令嬢が呼びに来てくれたね。
助かったよ。
「うん! ありがとう。もう皆は食べた?」
「はい。甘くて冷たくて、しかも高級なモモをあんなにたくさん食べられて幸せでした」
「あはは。桃はたくさん収穫できるから毎日だって持ってくるよ?」
「うわあぁ! ニホンは豊かな土地なのですね」
「あぁ……えっと……ニホンも昔は魔素が酷くてね。最近魔素が祓われてやっと安心して過ごせるようになったんだよ?」
幸せの島はルゥが来てから魔素が祓われたんだよね。
それまでは遥か昔の魔族の死体から出た魔素が濃くて……
魔族でさえ近寄らないからルゥを隠して育てるのにちょうど良かったんだ。
「そうでしたか……大変でしたね」
「ニホンは皆が頑張ってまた豊かになれたの。だから今、困っている小国も絶対に豊かになれるんだよ。わたしはそう信じているの」
「……聖女様は……世界の魔素を祓ったから……亡くなられて……苦しかったですよね? 温かな世界を望んで命がけで魔素を祓ったのに、こんな醜い世界を見て呆れませんでしたか?」
「ふふ。それ以上に嬉しい気持ちだよ? アカデミーに来てからもっともっと人間を大好きになったの。この世界の全ての人間に、幸せに暮らして欲しいと思っているよ?」
「ペリドット様……あ、調理実習室に着きましたね」
「うん。早くプリンアラモードを食べないとね」
「あの……今は誰もいないから……わたしの気持ちを聞いてください」
「え? あ、うん」
何かな?
もしかして悪口を言われるんじゃ……
「わたしは……人は醜い生き物だと思います。聖女様が命がけで魔素を祓ったのにそれを忘れて……無かったかのように普通に暮らしているのです。恥ずかしくて申し訳ないですが……わたし自身もそうでした。ペリドット様が現れるまでは何も考えずに……わたしは自分が嫌いです。聖女様は苦しかったはずです。だって命を失うくらいだから……だから……生まれ変わったペリドット様には誰よりも幸せになっていただきたいのです」
「……」
何て言ったら良いのかな……
すごく真剣な表情だから心が痛くなるよ。