調理実習ってワクワクするよね(6)
「あはは! ヒヨコちゃんのかわいさに腰が抜けたのかな?」
パパが楽しそうに笑っているね。
「うぅ……全然フワフワにならない……」
ベリアルは生クリームが泡立たなくて、つぶらな瞳がウルウルしてきたね。
ぐふふ。
かわいい……
「じゃあ、氷の魔法石でボウルの底を冷やそうか? 早く出来上がるはずだよ?」
パパはベリアルに激甘だね。
「え? そうなのか?」
「はい。やってみて?」
あぁ……
わたしもパパみたいにベリアルと生クリームを作る共同作業をしたいよ。
ぐふふ。
初めての共同作業……
「うわあぁ! フワフワになってきた!」
「ヒヨコちゃんは上手だね」
羨ましい!
わたしもあんな風にベリアルとイチャイチャしたいよ!
「あ、もうプリンが蒸し終わる頃じゃないかな?」
そうだった。
ベリアルに夢中ですっかり忘れていたよ。
パパが来てくれて良かった。
「うわあぁ! すごい! プリンになってる!」
クラスの皆が大興奮しているね。
「ふふ。じゃあ、プリンを冷ましている間に、皆も生クリームを作ろうね?」
いつまでもベリアルを見ていたら講義の時間が終わっちゃうからね。
また、おばあちゃんに怒られちゃうよ。
「うぅ……腕が疲れたけど……全然フワフワにならないな」
生クリームの泡立ては男の子のジャックにも大変そうだね。
やっぱりちゃんとした泡立て器が無いから難しいよね。
このままじゃジャックの良いところをリリーちゃんに見てもらえなくなっちゃうよ。
「皆も氷の魔法石を使ってね?」
昨日のうちに氷の魔法石を作っておいて良かったよ。
「すごい……高価な氷の魔法石をこんなにたくさん……おぉ! すぐにフワフワになりましたよ!?」
ジャックが大興奮しているね。
「魔力検査が正確になったからこれからは氷の魔法石も手に入れやすくなるんじゃないかな?」
でも、人間の魔力はすごく弱くなっているみたいだから、そのうち魔力を使える人間はいなくなるかもしれないね。
「じゃあ、フルーツをカットして盛り付けに入ろうか。って……ああ! アイスクリーム! まだ作っていなかったよ!」
しまった……
一番時間がかかるのに……
「え? あ、確かに……でもアイスクリームが無くても……」
ジャックは気を使ってくれているけどやっぱりアイスクリームは必要だよ!
「あ! そうだ! 氷の上位精霊にお願いしよう」
「ええっ!? そんな……アイスクリームを作るのに上位精霊様を呼び出すんですか!?」
「はは……まぁ普通は戦とかで呼び出すんだろうけどね。上位精霊の皆は友達っていうか、家族だからそんなのはイヤなんだよね。せっかく遊ぶなら怖い事じゃなくて楽しい事をしたいでしょ?」
「……家族を戦に巻き込みたくない……か。確かにそうですね。はは! だからペリドット様は上位精霊様に好かれるんでしょうね」
「ん? そうなのかな? よし、じゃあ、氷の上位精霊! アイスクリーム作りを手伝って!」
(ふふ。任せて。いくわよ?)
すごいよ。
あっという間にアイスクリームが出来上がったね。
「ありがとう! すごくおいしそうにできたよ!」
(また、いつでも呼んで? 今、第三地区にいたの。第三地区は素晴らしい所ね。人間も……と言っても創り物だけど……魔族も皆仲良しで、今も皆でこの調理実習を見ていたのよ?)
そうだったんだね。
遥か昔は上位精霊の皆のお陰で人間も魔族も距離を置きながら幸せに暮らしていたんだよね?
(そうね。今はあの頃とはずいぶん変わってしまったわ)
……そっか。
(ふふ。じゃあ、またね?)
うん。
ありがとう……
いつかまた、遥か昔みたいに人間と魔族が仲良く暮らせる日が来るのかな?
でも、魔族は人間を食べるし……
難しいだろうね。
「……じゃあ、盛りつけに入ろうか」
考えても仕方ない問題か……
わたしも前にいた世界で鶏肉を食べながら鳥を飼っていたし。
生きるって矛盾だらけだよ。
魔族が人間を食べるのは知っているけどわたしはそれを見た事がないし、見ないようにしてきたんだ。
人間が魔族の食糧なのはこの世界では当然の事だからね。
でも……
それは……食べられているのがわたしの知らない人間だからで……
もし、このクラスの人間が食べられたら?
お兄様やおばあ様が食べられたら?
わたしは魔族を恨むのかな?
それとも、それは当然の事だからってなんとも思わないのかな?
……はぁ。
結局わたしはどっち付かずの偽善者なんだよね。
人間でも魔族でもないからこんな甘い事を考えちゃうんだ。
魔族は生きる為に人間を食べなきゃいけないし、人間は生きたいから食べられたくない。
どっちも必死なんだよ。
人間と魔族が仲良く暮らせる世界なんて……
わたしの幻想なんだろうな。




