コットスと冥界で(4)
今回はハデスが主役です。
「ハデス……ありがとう」
え?
コットスがわたしに礼を?
「……いや、わたしはコットスを利用するだけ利用していただけの、ずるい男だ。申し訳なかった。ずっと放置してしまって……」
「ハデスにとってタルタロスは父親が囚われている場所だ。訪れたくない気持ちは分かるからな。気にするな。それに……ハデスの心は清らかだ。オレはそれが嬉しいのだ」
「わたしの心が清らか……?」
「あぁ……ハデスは昔からずっと清らかなままだな。家族思いで優しくて……だが今はペルセポネの事で頭がいっぱいのようだ」
「え? どうしてそれを……?」
「ははは! 顔に書いてあるからな!」
「え? 顔に……?」
本当に顔に書いてあるのか?
いつの間に……誰かに書かれたのか?
「それは冗談だがな! 実は……オレは他人の心が聞こえてくるのだ」
「……え? それは……どういう?」
心が聞こえる?
まさか……
わたしがペルセポネを好きで好きで堪らない事を全て聞かれていた……とか?
「ははは! それも冗談だ! ハデスはかわいいな!」
冗談?
はぁ……
良かった……
わたしは冥王だ。
恥ずかしい姿は見せられないからな。
常に堂々と勇ましくなければ……
「プッ」
……?
コットスが吹き出した?
どうかしたのか?
「本当にハデスはかわいいな! ははは!」
まさか……
本当に心の声が聞こえているのか?
いや、心を読む力など聞いた事が無いし……
考えすぎ……か?
「あ……ペルセポネ……」
わたしにもたれかかって眠ってしまったな。
昨夜も寝ていないようだし、さすがに限界か。
「……ハデスは……幸せか?」
コットス?
優しい笑顔だな。
「あぁ……幸せだ。父親をタルタロスに縛りつけたわたしが幸せになってはいけないと考えていた時もあったが……ペルセポネに出会って……世界が輝いたというか……上手く言えないが……幸せになりたいと思ったのだ。ペルセポネとならば幸せになれると……」
「そうか。……ペルセポネは産まれてくる子が化け物の姿でもいいと言ったが、ハデスはどうなのだ?」
「……魔族だった時は、産まれてくる子がヴォジャノーイ族の姿だったら絶対にイヤだと考えていた。だが……ペルセポネに言われたのだ。『じいじ』に良く似た赤ちゃんが欲しいと……」
「ペルセポネにとって重要なのは容姿ではなく心なのだな」
「あぁ……ペルセポネは素晴らしい……わたしにはもったいないくらいの相手だ」
「……産まれてくる子が爆発すると言っていたな」
「まだ分からないのだ。そういう可能性もあるという段階なだけで……」
「……オレがまだタルタロスに繋がれていた時……似たような話を聞いた事があったな」
「……!? そうなのか!?」
「……確か……両親共、化け物の容姿の天族の妻を妊娠させる……と。いや、違うか? 『実験で妊娠させる』だったか?」
「実験で……? それで……その子は!?」
「いや、妊娠させる事しか……そのあとすぐあの戦が始まったからな。タルタロスも慌ただしくなって実験どころではなくなったようだ。それに、タルタロスも冥界も子は授かれない場所だからな」
「……そうか」
「だが、どうなったかの記録は残っているはずだ。ハデス、この幸せを手離すな。オレはハデスにもペルセポネにも幸せであり続けて欲しいのだ」
コットス……
こんな愚かなわたしの幸せを願ってくれるとは……
申し訳ない気持ちでいっぱいだ。