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他人の心の中なんて分からないよね

(ぺるみ様……坊っちゃんの蚕の踊りが終わり、蚕が無事に繭を作り始めたようです)


 ゴンザレス、教えてくれてありがとう。

 坊っちゃんはあの踊りを恥ずかしがらずに踊ったんだね。


(ご両親は泣いて喜んだようですね)


 喜んだ?

『悲しんだ』じゃなくて?


(はい。立派になったと涙を流しているようでしたよ? オレは声を聞いただけですけど……)


 なるほど。

 アカデミーに通う息子が突然帰ってきて問題を解決したから嬉しくて泣いちゃったんだね。


(普通、あんな踊りをいきなり披露されたら親として心配になりますけどね……)


 本当にその通りだよ。

 吉田のおじいちゃんが蚕に繭を作るように頼んでくれたんだよね?


(そのようですね。あの場には他にそれができる者はいませんからね)


 ねぇ、ゴンザレス……


(はい? なんでしょう?)


 お願いがあるの。


(はい。ぺるみ様のお願いでしたらなんでも大歓迎です)


 誰にも言わないでね?


(……! はい。秘密にしますが……かなり重要な事なのですか?)


 そうだよ。

 ベリアルの事なの。


(ゴクリ。はい。どのような情報をお望みで? まさか……遥か昔の初代の神の息子だった頃のベリアルの話……とかでしょうか?)


 他に……


(他に?)


 他にも……あの超絶素敵なポエムを考えていたりしないのかな!?


(……え?)


 だからさ、あんな最高にかわいいポエムを、他にも脳内に隠していたら世界の損失なんだよ。

 ベリアルのポエムは皆を幸せにするんだよ。

 ぐふふ。

 ぐふふふ。


(聞きたい事とは、それですか? あの……他にも、種族王の考えている事とか、人間の王の秘密とか……)


 え?

 そんなのは気にならないからいいよ。


(え? そちらの方が重要ではありませんか?)


 種族王達は友達だよ?

 友達の頭を覗くなんて良くないよ。

 それに人間の王は、きっと良くない事をいっぱい考えているから、聞かない方がいいと思うんだよね。


(……ぺるみ様は変わっていますね。他の誰かが何を考えているのか気にならないんですか?)


『知りたくなかった』って後悔するのは分かりきっているからね。


(後悔……ですか)


 皆、口から出る言葉は清らかで……腹の中は見せないんだよ。


(ぺるみ様……)


 でも、それでいいんだよ。

 そうじゃないと、大切な誰かを傷つけちゃうから。

 腹の中では嫌われていても、それを態度に出されないならそれでいいんじゃないかな?


(それは辛くはないんですか?)


 親子でも、夫婦でも完全には分かり合えないんじゃないかな?

 全く別の生き物なんだから。

 わたしなんて、自分が何を考えているのかもよく分からないくらいだからね。

 他人の本性なんてさっぱり分からないし、知らない方が幸せなんだよ。

 

(だから、知りたくないんですね?)


 うん。

 聞いても傷つくだけだから。

 わたしは『大切な存在の口から出た言葉』を信じるよ。

 その言葉の奥にある真実を知ってはいけないの。

 それで世の中は上手く回っているんだから。


(なるほど……でも、ベリアルのポエムだけは知りたいんですね)


 うん!

 ゴンザレスは呆れた顔をしているけど、それだけは知りたいの。


(……分かりました。うーん。はい。そうですね。ポエムは無いようですが……あれ?)


 無いようですが?

 まさかポエムじゃなくて、もっと素敵なラブレター的な物があったりしたの!?

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