市場と坊っちゃん(4)
「……そんなの……先生として教えてくれたのとは違うし……」
「でも、教わったから来たわけでしょ?」
「……でも」
「坊っちゃんは、お父さんに蚕の事を頼まれたから市場に来たの?」
「父上は市場に蚕のプロがいるって知らないから……」
「坊っちゃんは自分の意思で来たんだね?」
「父上の役に立ちたいから……」
「本当は来たくなかったんだよね?」
「え? どうしてそれを……」
「本当は……平民とか貴族とかじゃなくて、以前に市場で酷い事をしちゃったから来たくなかったんじゃない? だって、貴族なのに平民に頭を下げなきゃいけないんだからね」
「……それは……わたしだけの問題だから……わたしが謝れば済むけど……貴族のわたしが平民から教わっているなんて知られたら……伯爵家に迷惑がかかりそうで……」
「……結局坊っちゃんはどうしたくて市場に来たの?」
「蚕のプロに話を聞きたくて……でも……」
「坊っちゃんはお父さんを助けたくて、プライドを捨てて市場に来たんだよね?」
「え? あ……そうだけど……でも……」
「あのさ……相談役は忙しいんだよ? そんな『でもでも』言っている人間に付き合っていられないの」
「え? あぁ……ごめん」
「坊っちゃんは困っているお父さんを助ける為に市場に来たんだよね? じゃあ、いつまでもグジグジ言っていないで『困っているから助けてください。この前はごめんなさい』って言えばいいんだよ」
「でも……さっきは赦してもらえなかったし……」
「当然だよ。おじいさんと子供を殴ったんだよ? 赦してもらえるはずがないでしょ? 何度でも謝るんだよ。赦してもらえるまで何度でもね」
「何度も?」
「そうだよ。殴られたジャックとおじいさんは謝罪の言葉を聞きたいのかな?」
「え?」
「言葉なんていくらでも嘘を言えるでしょ?」
「じゃあ……どうすれば?」
「真心とか誠意かな? 態度で示さないとね?」
「どうやって?」
「坊っちゃんの領地の蚕が繭を作ろうがどうしようが市場の皆には何の関係もないんだよ。何も困らないからね」
「それは……そうだけど……」
「じゃあ、仲良しの友達が困っていたら?」
「え?」
「坊っちゃんと市場の皆が友達になればいいんだよ」
「友達!?」
「先生にしたくないなら友達になってもらうしかないでしょ? そうすれば助けてもらえるよ?」
「……だから、さっきから言ってるけど……貴族の奴らにバカにされるから平民とは関われないんだ」
「でも、今こうして市場にいるでしょ?」
「……そうだけど」
「友達が無理なら先生になってもらうしかないよ?」
「……そうだけど」
「……坊っちゃんは蚕の事を相談役から無理矢理聞き出す事もできるのにしなかったよね? 前みたいに殴れば簡単に教えてもらえたんじゃない?」
「そんなの……失礼だから……」
「失礼?」
「教えてもらうのに……殴るのは良くないから……」
坊っちゃんは根っからの悪者じゃないんだね。