市場と坊っちゃん(3)
「赦してもらえるなんて思ってない……わたしだって身分が上の奴に殴られて、わたしの方が身分が下なんだから赦せって言われたら……絶対赦せないから。自分が同じ立場にならないと分からないなんて……わたしはバカだ」
……?
同じ立場に?
誰かに殴られたって事?
「じゃあ……こうしたらどうだ? 坊っちゃんは市場に来て相談役に蚕の機嫌を良くする方法を習うんだ。相談役は坊っちゃんの先生って事だな」
吉田のおじいちゃんが坊っちゃんに優しく微笑んでいるね。
「先生? でも貴族が平民を先生って呼ぶなんて……」
坊っちゃんが困った顔をしているね。
本当は教えて欲しいけど他の貴族にどう思われるか心配なんだね。
「何か変なのかな? わたしは相談役にレース編みを教えてもらったよ?」
相談役はレース編みがすごく上手なんだよ。
「え? 王女……なのに?」
「王女とか貴族とかそんなの関係ないんじゃないかな? やりたい事を達人から習いたいって思わない?」
「達人から?」
「坊っちゃんは知っているかな? あっちにある紙屋さんはすごくツルツルの紙を作れるの。カルメヤキも上手に作るのはすごく難しいんだよ? クッキーも生焼けにならないように、焦がさないように焼くのは大変だし……だからね? この市場の店主全員がプロなんだよ?」
「プロ?」
「そうだよ? プロから何かを教わるのに恥ずかしい事なんてあるのかな?」
「でも……」
「分かるよ。厳しい身分制度の中で育った坊っちゃんには、なかなか難しいよね。でも……確か、先々代のリコリス王は平民から色々教わっていたって聞いたよ?」
「え? そんなの……聞いた事がないけど……」
「相談役、坊っちゃんに教えてあげて?」
相談役ならわたしより詳しく知っているはずだよね。
「あぁ……はい……先々代の陛下は生活の知恵……と言いますか……川の流れの微妙な変化や山鳴り等が災害に関係していると考えられて、川が氾濫する時にはどのような前兆があるか等をよく尋ねに来られました」
おぉ……
相談役はカタコトじゃなくなったね。
「名君と呼ばれる先々代の陛下が?」
「はい。常に民と同じ目線に立ち、我らの事を気づかってくださいました」
「……でも、陛下を悪く言う人がいなくても、オレが同じ事をしたら……他の貴族にバカにされるんじゃ」
「それはそうですが……」
それを相談役に言っても……
相談役も困っちゃうよね。
「ねぇ、坊っちゃんはどうして市場に来たの?」
蚕のプロの相談役に話を聞きに来たんだよね?
「え? それは……蚕が繭を作らなくなって……父上が困り果てていると手紙が来て。そしたら護衛が市場の相談役は蚕のプロだって教えてくれて……」
「ふふ。じゃあ、もう坊っちゃんは平民から教わっていたんだね」
「え?」
「だって、平民の護衛が教えてくれたから市場に来たわけでしょ?」