市場と坊っちゃん(2)
「……そうか。銀貨を与えれば……でも……本当にそうなのか?」
坊っちゃんが悩み始めているみたいだね。
あぁ……
そうか。
平民の護衛は坊っちゃんに考えるきっかけを与えたんだね。
「坊っちゃん、そうです。銀貨を与えて蚕の話をさせましょう」
また、さっきの平民の護衛が話したけど、もう一人の貴族の護衛は話さないんだね。
貴族が同じ事を言ったら更に嫌な言葉に聞こえちゃうからかな?
この護衛二人は坊っちゃんの性格をよく知っているみたいだからね。
上手くいくように誘導しようとしているのかも。
一応雇い主の息子だし、坊っちゃんの領地が没落でもしたら大変だからね。
「……本当にそれが正解なのか? 市場の人間はいつも楽しそうに働いていて……仕事に誇りを持っていて……銀貨が欲しくてこんな事を言うような奴らじゃないはずだ……」
おぉ……
坊っちゃんがまともな事を言い始めたね。
「……! 坊っちゃん……」
護衛の二人が嬉しそうな顔になったね。
「でも……貴族が平民に頭を下げたなんて噂が広まれば……伯爵家に迷惑がかかるし……でも……どうすれば……」
この世界には厳しい身分制度があるからね。
幼い頃からその中で育ってきた坊っちゃんには色々難しいだろうね。
「坊っちゃんは……どうしてぇんだ?」
吉田のおじいちゃんの表情がさっきとは違って穏やかになったね。
「……蚕の話を聞きたい……でも……わたしは……この前、市場の子供と年寄りを殴ったから……」
「どうしてそんな事をしたんだ?」
「……悔しかったから。だって……わたしは伯爵家だけど……アカデミーに入ったらもっと身分の高い奴らが大勢いて……息を殺していないと目をつけられるから……それなのに、市場の平民はいつも賑やかに楽しそうにしているから……悔しくて……」
「八つ当たりしたんだなぁ……」
「……殴った手が……痛かったんだ。殴られた方はもっと痛かったはずだから……しかも、年寄りと子供を殴るなんて……わたしはなんて事を……」
「悪い事をしたと分かったら謝らねぇとなぁ。身分の違いに悩む事もあるだろうけどなぁ……」
「……八つ当たりして……すまなかった。カルメヤキのじいさんと……クッキーの子供……本当に……すまなかった。本当はカルメヤキもクッキーもおいしかったんだ……」
おぉ!
坊っちゃんは、やればできる子だね!
殴られたおじいさんとジャックが目を見合わせて何かを考えているみたいだね。
「オレは……赦さないよ? だって痛かったし」
ジャック……
まあ、そうだよね。
偉そうに威張って市場をメチャクチャにした坊っちゃんを赦せるはずがないよね。
「まぁ……そうだな。赦せはしないが……さて、どうしたものか……」
カルメヤキのおじいさんも赦せないよね。