わたしもルゥに酷い事をしてきたんだよ
「でも……まさかこんな酷い事になっていたなんて」
『ギリギリ生きていられた』くらいじゃないのかな?
「王妃は、薬を使っていた事を隠す為にさらに強い薬で眠らせてから引き渡したようですね」
ベリス王は、いつも通りの作り笑顔だね。
でも、瞳の奥が怒っているのが分かるよ。
「……どこまでも愚かだね」
「……人間が嫌いになりましたか?」
「世界の補正力の事かな? それなら大丈夫。一部の邪悪な人間の為に善良な人間まで嫌いにはならないよ」
「そうですか。ぺるみ様……わたしからもお願いがあるのですが……」
「え? うん。何かな? もうあげられる物も無いけど」
「前にお話した四大国のわたしの店で買い物をする件ですが。明後日のアカデミー終了後でも大丈夫でしょうか?」
「明後日? うん。わたしは構わないけど……どうして明後日なのかな?」
「とりあえず、明後日はアルストロメリア王国の店舗にお願いしたいのです。お祭り好きのアルストロメリア王が『髪が生えて嬉しいな、の祭り』を催すらしいのです」
「……すごい名前のお祭りだね」
「はい。毛量が増え自信のついたアルストロメリア王は次々にお見合いをしているようですよ?」
「へぇ……すぐにでも王妃を迎えられそうだね」
「人柄は素晴らしいですからね」
「そうだね。あんなに善良で他国の王様に騙されないといいけど」
「あれでも大国の王ですからね、その辺りは心配ないでしょう」
「優しいだけじゃないって事だね」
「はい。それだけでは大国の王には、なれませんよ」
ベリス王はいつでも冷静だね。
作り笑顔が揺らぐ事もほぼ無いし。
「今、帰った……ヨシダのおじいさん、ケルベロスから薬をもらってきたが……やはり元の通りには戻れないようだ」
ハデスが冥界のケルベロスからレオンハルトのお兄さんに効く薬をもらってきてくれたね。
あのケルベロスにも作るのが難しい薬があるんだね。
「とりあえず、飲ませてぇんだけどなぁ。深く眠ってるから今飲ませたら危ねぇなぁ」
「おじいちゃんの言う通りだね。海賊のおばあさんに渡して、起きたら飲ませてもらおうか」
「そうだなぁ。ぺるぺる……おばあさんに一度こっちに来てもらうのはどうだ?」
「え? おばあさんに?」
「『ルゥ』に会ってもらいてぇんだ」
魂の抜けたヴォジャノーイ族の『じいじ』の身体と一緒に横たわっている『ルゥ』の身体に?
「……そうだね。……でも……怖いよ」
「怖い?」
「わたしが……大切な……孫のルゥに……あの若さで亡くなるような無理をさせたから……」
「ぺるぺる……おばあさんは分かってくれてるさ……ルゥが大好きな『じいじ』と一緒に寝てる姿を見れば安心するだろう?」
「……うん。わたし……ちゃんと謝るよ。何度も……何度も謝るよ……」
「ぺるぺるは悪くねぇんだ。だから……そんな辛そうな顔をするな。ルゥが聖女としてこの世界を浄化しなかったら、人間は魔素にやられて滅んでたんだぞ?」
「……うん」
おばあさんは優しいから赦してくれるだろうけど……
心が痛いよ。
大切な孫に、あの若さで亡くなるような事をさせたのはわたしなんだから……